不吉な気配
マスクを身に着けた人の群れをかき分け、彼女の姿を探す。
普段であればただ可愛らしいだけの特徴。
――海斗の目線より下にある背丈が、その姿を捉えることを難しくさせていた。
鵜坂の気配は特徴的だ。
一般人と比べると、明らかに強い気配を放っている。
普段であれば簡単に見つけることができただろう。
しかし休日の人が密集している街中では、そう簡単には行かなかった。
こんな状況では、海斗の『気配察知』も役に立たない。
例えるならレーダーに小さな点が寄り集まり、真っ赤になっているようなもの。
いくら鵜坂の発している気配が強いとは言え、それは一般人と比べての話。
現状では他者に埋もれて、判別することなど不可能だった。
歌恋のように隔絶した存在であれば――先程のように――気付くことも出来る。
だがそんな仮定は何の意味も持たない。
少しでも彼女の痕跡を見つけるため、周囲に視線を巡らせる。
まるで田舎者のような仕草。だが今はそんなことを考える余裕などなかった。
必死になって鵜坂の姿を追い求める海斗。
すると視界の端にちらりと、見覚えのある後ろ姿が映った。
「……今のって」
恐らく鵜坂だ。
この人ごみで見失ってしまえば、もう彼女の姿を捉えることは出来ないだろう。
必死になって鵜坂の背中を追いかける。
だが目の前には、まるで壁のように立ち塞がる人波。
この街には休日に人が驚くほど集まってくる。
そんな副都心としての性質が、急ぐ海斗の歩みを遅々たるものにしていた。
焦る気持ちとは裏腹に、鵜坂との距離は一向に近づかない。
何とか着いていくだけで精一杯だ。
ギリギリだが彼女を追うことは出来ている。
苛立つ気持ちを抑えながら、海斗は可能な限り先を急いだ。
人垣を抜け周囲を見回すと、後輩の後ろ姿が路地裏へと消えていく。
先程までとは打って変わって、まばらになった通行人。
これなら鵜坂の気配を感じることもできるだろう。
早速、確認のために海斗が意識を集中すると――
『気配察知』で彼女の位置を――確認できた。
もう見失うこともないだろう。
そう考え、安堵の息を吐く。
落ち着きを取り戻した海斗は鵜坂を追うため歩き出し――
「えっ……」
あることに気付き、驚きの表情を浮かべる。
海斗と鵜坂の間――路地裏の中に存在する何者かの気配。
それは突然、何もない場所から湧き出すように現れた。
「おいおい、嘘だろ……」
驚きの言葉は気配が突然現れたことに――ではない。
知ってる。そう海斗は知っているのだ。
ゆっくりと鵜坂に向かって動き出した何者か。
『気配察知』で捉えた相手の正体を。
出現した気配は路地裏を入ってすぐの辺り。
幸いなことにまだ両者の距離は十分に開いている
まだ確信を持つことはできない。
そう自分自身の目でヤツの存在を確認するまでは。
焦る必要はない。だがのんびりしている訳にもいかない。
海斗はゴクリと唾を飲み込むと、慎重に路地裏へと歩を進めた。




