画面越しの……
強引な後輩に連れられて、やってきた繁華街。
海斗は鵜坂と共に、人が行き交う雑踏を進んでいく。
流石に手を繋がれて連行されるのは勘弁して欲しい。
強く願い出たことで、何とか並んで歩くことに落ち着いた。
しかしどうしてこんなに懐かれてしまったのか。
海斗は隣を歩く鵜坂の横顔を眺めながら考える。
「……?」
こちらの視線に気付いたのだろう。
鵜坂が可愛らしく小首を傾げる。
なんでもないと合図を送り、彼女が視線を正面に戻すのを確認。
そのまま彼女が入社してきた頃に思いを馳せる。
初めて会った時は、もっと物静かだったような?
何とも朧気な記憶に、海斗は驚きを覚える。
今の印象があまりに強すぎて、入社直後の彼女が殆ど記憶に残っていない。
気が付いた時には先程のように、グイグイと来る感じになっていた気がする。
ではそうなったのは、いつからだったのだろう?
確かそうあれは彼女の入社した週末に行われた――新人歓迎会。
そこで酒を飲みながら、少し話をした記憶がある。
まあ普段飲まない酒を飲んだせいで、詳しいところは全く覚えていないのだが。
土日を挟んで迎えた週明けの月曜日。
その時には既に、今のような感じになっていたと思う。
何かやってしまったのだろうか?
だが翌日の土曜日は、自室に一人で目を覚ました。
恐らく最悪の事態はないと思われる。
『はい……私、精一杯歌いたいと思います!』
後輩の変化について考察していた海斗は、ふと聞き覚えのある声に足を止める。
海斗の視線の先にはビルの壁面に設置された、大型の屋外用LEDビジョン。
その画面には清楚と表現するしかない、魅力的な――白いワンピース姿の少女が映っていた。
じっと立ち止まり、映し出される光景に視線に目を奪われていると――
「……? センパイ? どうしたんですか?」
可愛らしくちょこちょことした動きで、こちらの顔を覗き込む鵜坂。
彼女は海斗の視線を追うように顔を動かし、大型ビジョンに目を向ける。
「あれっ? もしかしてセンパイもKARENのこと好きなんですか?」
そう画面に映し出されているのは、あの日共に戦った大切な仲間。
――歌恋の姿だった。
画面の中でころころと表情を変えながら、インタビューに答える少女。
彼女から目を離すことが出来ないまま、曖昧に鵜坂の言葉に頷きを返す。
「今彼女ってすっごい人気ですよね~! 男性だけじゃなくて、若い女性の支持も凄くて。まだデビューしたばかりなのに、ゴールデンウィークにはソロライブも決まってるんですよ? 凄くないですか?」
会社の後輩の口から語られる、見知った少女の知らない情報。
複雑な感情が海斗の心の中で渦巻き、何とも言えない気持ちが浮かんでくる。
「何て言うんですかね? KARENの曲って、会えない大切な人を想う切ない気持ちが伝わってきて、胸が苦しくなるんですよね~。多分その辺りが女性支持に繋がってると思うんですよ~」
鵜坂も相当彼女の歌が気に入っているのだろう。
そのマシンガントークからも、強い思い入れが感じられる。
だがまだ海斗は歌恋に対する感情を整理出来ていない。
そんな状態では鵜坂の会話に着いていくことは難しかった。
「あ~その何だ。お前の行きたいってパスタ屋。人気のある店なんじゃなかったっけ?」
「……!? そうでした! 早く行かないと売り切れちゃう!!」
誤魔化すように発した話題。しかしその効果は抜群だ。
途端に鵜坂は慌てた様子をみせ始める。
「さあセンパイ! 急ぎましょう!!」
「おい、引っ張るな! 分かった、分かったから!!」
またこちらの手を引っ張ろうとする後輩をなだめる。
嫌ではないのだが、やはり若い女性と触れ合うのは気恥ずかしい。
「さあ、美味しいランチが待ってますよ~」
沈みそうになっていた気分が、彼女の明るさによって引き戻される。
こう言うところがあるので、海斗はついついこの後輩に付き合ってしまう。
最早ランチミーティングのことなど頭の片隅にもないのだろう。
こちらを急かしてくる後輩に連れられ、彼女のお勧めする飲食店へと向かうのだった。




