脱出③
本話で第一部完結となります。
視界が真っ白に染まったかと思うと、一瞬で周囲の景色が切り替わる。
目の前に広がるのは地上に向かって延びる階段。
どうやら転移の魔方陣ということで間違いなかったらしい。
この場所を離れるため、階段を昇るべきなのは分かっている。
しかしそれを許さない程の揺れが三人を襲う。
今は倒れぬように堪えるだけで精一杯な状態だ。
僅かに揺れが収まった瞬間――背後で何かが崩れる大きな音が響く。
舞う砂埃。驚き振り返ると、恐らくダンジョンに続いていると思われる道らしき物があった。
しかし通路は土砂によって途中で封鎖されている。
恐らく先程の轟音はこの通路に土砂が降り注いだ音なのだろう。
揺れが収まり安堵の息を吐きそうになる。だがまだ油断する訳にはいかない。
気を緩めるのは無事にこの場所を脱出してからでいいだろう。
胸元をぎゅっと強く握る感触。それは抱き抱えた少女の震える手。
どうやら歌恋も不安を感じているようだ。胸元の手を軽く握り返し目を見ながら安心させるように頷く。
震えが収まるのを確認し、彼女の手を引きながら歩き出す。
この先が地上に通じていると信じながら、階段を一歩一歩確かめながらを昇っていく。
「マスター!!」
暫く進んで行くと、長い階段の先に光が見えた。
「ああ……」
ティセの声に頷き、歩みを進める。心なしか二人の歩調が早くなる。
階段を抜けたその先は――公園。
この場所に来る前にいたはずの場所。
しかし目の前に広がるのは、見覚えのあるようで見たことのない光景。
道路を挟んで存在しているコンビニらしきもの――確かにそこは帰り道に通った公園で間違いないはず。
だが明確に違う部分がある。
ひび割れた大地。崩れた建物。
「……この場所って」
目の前の光景が理解出来ないのだろう。歌恋の発した声は驚きに満ちていた。
面影を残してはいるものの、別の場所だと言われてしまえば納得してしまいそうになる。
「多分……あの公園だと思う」
歌恋の手を引き、公園内を進む。
向かったのはかつてカフェの在った場所。そこにはぽっかりと穴があいている。
縁から覗き込むがその果てを見通すことは出来ない。
広がる闇。まるで奈落の底まで続いているのではないか。そんな不安感が湧きあがってきくる光景だ。
二人は変わり果てた地上で呆然と立ち尽くす。
結ばれていた手が離れ――
「ははっ……はははははははははっ!!」
海斗の口から自然と笑い声が漏れる。
ダンジョンから抜け出せば全て元通り。そんな甘い幻想を持っていた自分自身を嘲笑うかのように。
額に手を当て、目元を覆い隠す姿はまるで涙を堪えているようだった。
「マスター……」
そんな海斗の様子を心配してか、ティセはぎゅっと首筋に抱きついてくる。
歌恋の手が空を彷徨う。
ティセに習い抱きしめるべきか。
溢れ出す感情のままにただ笑い続ける海斗に、どう接して良いのか判断に迷っているようだ。
これからどうすれば良いのか分からない。それは歌恋も同じこと。
笑う海斗に視線を向けながら何も出来ずに立ち尽くしている。
「……クソッ!」
海斗の怒声が公園の跡地に響き渡った。
それは今の状況に対してではない。庇護すべき存在を放置し、我を忘れてしまったことに対する怒り。
「海斗、さん……」
「……取り乱して悪かった」
小さく名を呼ぶ少女に、海斗は謝罪を伝える。
次の言葉を紡ごうとした瞬間――天から降り注ぐ水泡が海斗の髪を濡らす。
「移動……しないとな……」
二人が歩き出そうとした時、視界の隅に人影が映った。
遠くから駆けてくる制服姿の男性が二人。
それはアニメやゲーム、TVのニュースで見覚えのある姿。しかし実際には目にする機会の少ない――自衛隊の制服。
「生存者発見! 男女二名です!!」
自衛官は手に持った無線機に向かって語りかけながら、こちらへと向かってくる。
その姿を視界の端に捉えながら立ち尽くす二人。
天から降り注ぐ雨粒。離れた二人の手。
まるで海斗の気持ちを代弁するために、空が泣いているように見えた。
第二部に関しましては、ある程度大枠は考えているので、
今週中には投稿開始出来ればと考えております。
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