選択の時①
「……!? マスター! もしかして……」
立ち上がった海斗にティセは驚きの声をあげる。
ボス部屋へ向かおうとしている。恐らくそう考えたためだろう。
漆黒の騎士が歌恋に何をしたのか分からない以上、再びヤツと対峙しそれが何なのか探る必要はあるかもしれない。
「いや。ヤツと戦うのは最後の手段だ……」
だが恐らく普通に戦った場合、今の海斗の実力では騎士を倒すことは難しい。
歌恋の体調を考えるなら、可能な限り早く問題を解決する必要がある。
しかし無理をして何かあれば、彼女を一人この場所に残すことになってしまう。
他に手段がなければ、ヤツと戦うことは避けられない。
危険を冒しヤツと対峙するのであれば、他の可能性を全て潰した後にするべきだ。
ならばまず最初に行うべきは――このダンジョンの出口を探すことだろう。
ダンジョン内の探索はかなり進んでいる。だがまだ確認出来ていない場所もある。つまりあのボス部屋以外に出口が存在している可能性も捨てきれないと言うことだ。
そのためにはこの場所を離れ、探索を行う必要があるのだが――
「…………」
眠る歌恋に海斗は視線を向ける。
周囲にモンスターの気配がないとは言え、あまり長時間この場所――歌恋の元を離れることには不安があった。
「なあティセ……」
視線を向けながら、小さなパートナーに声をかける。
「んっ? どうしたのマスター?」
「……少し頼みたいことがあるんだけど」
「えっと、それってアタシに出来ることかな?」
首を傾げながら海斗の言葉に耳をかたむけるティセ。
「ああ、ティセにしか頼めないことだ」
彼女は少し嬉しそうな表情を浮かべる。しかしすぐにその表情を引き締め、話の続きを促してきた。
「暫く歌恋のことを任せたいんだ」
「えっ! でも、それってやっぱり……」
驚きの表情でティセはこちらに視線を送ってくる。
どうやら誤解させてしまったようだ。これはきちんと目的をしてしていない海斗が悪い。
反省しながら、彼女にこれから行おうとしていることを説明する。
「別にヤツと戦う訳じゃない。まずは出口がないか確認しようと思って……」
「なるほどね……う~ん、でもマスターの側を離れるのは……」
ティセはこちらの考えに理解を示してくれた。だが側を離れることが嫌なのだろう、その言葉尻には不満感が現れている。
だがこれから先の行動には、彼女の協力が不可欠だ。
「ティセを信頼してるからお願いしたいんだ」
「……うん。分かったよ。マスターがそこまで言うなら」
なぜティセにお願いするのか。その理由を話すと、彼女は納得しこの場所に残ることを了承してくれた。
やるべきことは決まった。ならば早速行動に移すべきだろう。
ボス部屋方面は昨日の様子から、ほとんどモンスターは存在しないと考えられる。
歌恋やティセの安全を考えるならば、まず探索すべきは海斗が目覚めた方面になるだろう。
手早く準備を済ませると、一度二人の方に視線を向ける。
「行ってくる」
「気を付けてね、マスター」
見送るティセの言葉を背に、海斗は静かにカフェを後にした。
――あれから数時間後。
早々に自身が目覚めた方面の探索を終わらせると、ボス部屋のある方面の探索を開始した。
一つの見落としもないように慎重に探索を行う海斗。
しかし出口らしき場所を発見することは出来なかった。
ただ気になる場所は何箇所かあった。それは最初の部屋と同じように土砂崩れで通路が塞がれていた場所。
何とかこじ開けることが出来ないかと挑戦してみたが、土砂は厚く降り積もっており、大剣一つではどうにもならなかった。
封鎖された通路の先が、出入り口になっている可能性はある。
しかし、通る手段がない以上、その真偽を確かめる術はない。
「マスター! 大丈夫? 怪我とかしてない?」
カフェに戻ると、即座に海斗に向かって飛んでくるティセ。
彼女は心配そうにこちらの身体の確認するように飛び回り心配そうな声を上げる。
はじめての別行動。彼女が心配するのは無理のないことかもしれない。
「ああ、大丈夫だ」
「ふう、良かった~心配したんだからね! それで……マスター、どうだったの?」
心から心配するティセ。彼女に感謝を伝えるように頭を一撫で。
海斗はティセに視線を向けながら、首を左右に振り収穫がなかったことを告げた。
歌恋の額に置いた濡れタオルを取り替えながら考える。
彼女の熱は相変わらず高いまま。
出口を探す道が断たれた以上、海斗の選べる選択肢は多くなかった。
歌恋の病状が良くなると言う確証がない以上、待ちの姿勢は選択できない。
「……やるしかないか」
海斗は決断する。残された分の悪い選択肢を選ぶことを。




