その先には――③
「……これでいいか」
少し離れた場所にあった人の頭位の大きさ少し尖った岩を手に取る。
海斗は自身の位置を確認する。今立っているのは歌恋と扉の中間地点。ここから扉までの距離は一五メートルと言った所だろうか。
「えっと、マスター? そんな岩……どうするの?」
「これか? こうするん――だ!!」
手にしたモノを大きく振りかぶり、開かれた扉の片側に全力で投げつける。
轟音と共に投擲した岩が砕け散り、舞い上がる砂埃が扉を覆い隠す。
「えっ!? ま、マスター?」
突然の行動にティセは目を見開き、驚きの表情を見せる。
砂埃が収まると、海斗は正面の巨大な扉を確認。
そこにはひび割れ、少し屈めば人が一人通れそうな程度の穴の空いていた。
「ほら、こう言うボス部屋って、一度入ったらボスを倒すまで出れなくなるのが定番なんだよ。だから最初に、な。それに、石橋は叩いて壊せって言うだろ?」
「なるほどね~。うん、さすがマスター! ナイスアイデアだね!!」
無理矢理作られた脱出口に視線を向けながら、行動の意図を語った。
ティセは手放しに海斗の考えを賞賛する。
普通に考えれば暴挙とも言える行動。しかしこの場所にそれを咎める者はいない。
「それじゃあ、行ってくる。ティセ、歌恋のことを頼んだぞ」
「うん任せて! マスターも気を付けてね」
ティセの返事を確認し、海斗は一歩一歩慎重に扉へと向かって歩を進めはじめた。
扉の前に立ち、その内側を探るため暗闇へと視線を飛ばす。
すると目の前の空間で『ボッ』と言う音が響き、壁面を伝うように次々と炎の明かりが灯されていく。
――どう考えてもボス部屋としか思えない演出だ。
ここから見える範囲で判断するなら、学校にある体育館位の広さだろうか。明るく照らされたフロア内には、円形闘技場と言った雰囲気のローマ風建造物が存在していた。
扉を潜り円形闘技場の入り口で立ち止まる。
「それにしてもなんて言うか凄い作りだな……」
周囲に視線を向けると、その作りの細やかさに感嘆の声が漏れてしまう。
足元は土が敷き詰められ、石造りの壁面にはレリーフが彫られているのが見える。
少し視線を上げると、円形に広がる無人の観客席。映画にでも登場しそうなコロシアムの姿が再現されていた。
非常に精緻な建造物。しかし最も目を引くものは別にあった。
それは――最奥に設置された美しい女神像。
「あれって……」
海斗の視線の先――女神像の胸元。そこには朱色の宝玉が両手の平で包み込むように固定されているのが見えた。
こぶし大の宝玉は何か特殊なアイテムではないのかと思わせる、神秘的な雰囲気を纏っている。
見る者を魅了する真紅の輝きは、まるで吸い寄せられるようで――
「……ッ!!」
持って行かれそうになる意識を引き戻し、頭を振り自身を戒める。
あの朱色の玉が何なのかは分からない。しかし何かあると考えて行動した方が良いだろう。
「取りあえず、あの赤い玉は直視しない方が良さそうだな……」
怪しい魅力を放つ宝玉から視線を逸らし、周囲を警戒しながら前進する。
入り口を潜り、一歩闘技場内に足を踏み入れた瞬間――ゴゴゴゴゴと何かが動く音が背後から響く。
海斗が背後へと振り返ると、先程まで開かれていたはずの巨大な扉が閉ざされていた。
「……考えたくはなかったけど、やっぱり想像通りってことか」
閉じた扉を目にした海斗は、思わずため息を吐く。
事前に想定出来ていても、実際そうなってみると何とも微妙な気分になってしまう。
とは言え、事前に講じた策は功を奏していた。
確かに扉は閉ざされている。しかし先程開けた穴は空いたまま。
退路が確保出来ている状態であれば、万が一の場合も対応を取りやすい。
「さて鬼が出るか蛇が出るか……」
覚悟を決めた海斗は闘技場を進む。
前方を中心としながら左右にも気を配り、突然の襲撃にも対応出来るように大剣を中段に構える。
一歩また一歩と歩みを進め中央付近に差し掛かろうとした時、海斗の身を今まで感じたことのない恐怖が襲う。
「……ッ!?」
身体が自然と震え出し――上空から飛来するナニカが、視界に影を作る。
轟音を響かせ砂埃が舞う中、ソレは大地に降り立った。




