その先には――①
朝目覚め、朝食をとり、出発するための準備を整える。
それは日常の中で週五回繰り返される行為。まさにいつも通りのルーチンワーク。
しかもそれが美少女と一緒に、となれば朝の何気ない光景も非常に張り合いのあるものに変化するだろう。
甲斐甲斐しく海斗の世話を焼こうとするティセ。隣には歌恋。
こんな日々が続けばいいのに。そんな夢想に耽ってしまうのも、男であれば仕方ないことだ。
――ここがダンジョン内でなければ。
本来であれば微笑ましく感じるであろう状況も、場所が場所だけに違和感が強い。
朝からなぜそんなことを考えているのか。それは昨晩、歌恋の心の内を知れたことが大きいのかも知れない。
隣に視線を向けると、彼女はどこかぼーっとした様子を見せており、その頬には朱が差している。
視線が合うのが恥ずかしいのだろうか、彼女は目を伏せ表情を見せようとはしない。
そうこうしている内に準備が完了する。
準備と言っても武器の点検とある程度の食料を鞄に詰める程度のことなのだが。
これを怠ってしまうと、休憩をする際に毎回この場所まで戻ってこなければならない。
「そろそろ出発しようか」
「…………」
「……歌恋?」
「……あっ、すいません。ぼーっとしてしまって。はい、出発しましょうか」
何か考えごとでもあるのだろうか。昨日話をしたことで、二人の距離は縮まったと思う。
もし他にも抱えていることがあるのなら、気軽に話して欲しいと考えてしまうのは傲慢なのだろうか。
ティセも彼女の様子から何かを感じ取ったのだろう。こちらに聞こえぬ程度の声音で歌恋と二人、何か話をしている。
時折首を振る歌恋の様子が気にかかるが、流石に他人の話を盗み聞きする訳にはいかないだろう。
折を見て尋ねても良いのだろうか。海斗は心の中で葛藤を抱えながら、二人の会話が終わるのを待って探索を開始した。
「ティセ、どうだ?」
「……少なくとも、この近くに反応はないみたいだね~」
ティセに問いかけながら思考を巡らせる。
探索を開始して既に三〇分以上は経過しているはずだ。
しかしその間に遭遇した敵の数は――ゼロ。
昨日カフェへの帰り道でも考えていたことだが、もしかすると周囲のモンスターを狩り尽くしてしまったのかもしれない。
「まあ敵がいない方が探索は進むから、悪いことでもないか」
「……確かにそうかも、知れませんね」
言葉とは裏腹に歌恋の表情に影が見える。
もしかすると敵が出ないことに対して不満を感じているのかも知れない。
今後のことを考えるのであれば、もう少しレベルを上げておきたい気持ちもある。
海斗は移動しながらも、モンスターの気配を見逃さぬよう気を配ることにした。
敵とのエンカウントがないと、探索も非常にスムーズに進む。
しかしそこそこの距離、ダンジョン内を移動しているが入り口らしき場所は発見出来ない。
何の成果もないまま代わり映えのしない光景を見続けているのは、精神的にも厳しいものがある。
ちらりと隣に視線を向ける。無言のまま少しうつむきがちに歩く歌恋の姿からも、体力の消耗が見て取れた。
時折気遣うようにティセが彼女に話しかけていたが、ここは自分から休憩を切り出すべきだろうか。
そんな考えを脳裏に浮かべながら、視線を正面に戻し――海斗は目を見開き動きを止める。
突然動かなくなった海斗に気付いたのだろう。歌恋も立ち止まり視線を上げ――驚きに目を見開く。
「えっ、これって……」
海斗には、なぜそんなモノがこの場所にあるのか理解出来ない。
だがソレが何なのかは理解出来る。
視線を向けてくる歌恋に頷きで答え、海斗は目の前の光景に口を開く――




