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目覚めた先は④

 金属製のノック式ボールペン。B5サイズのメモ帳。公共料金の領収書。ブロック栄養食二箱半。三分の二程度残った五〇〇ミリリットルペットボトルのお茶。


「……碌な物がないな」

 地面に広げた荷物を眺めながら海斗は思わずぼやいてしまう。

 ちらりとティセに視線を向ける。

 彼女はボールペンが気にいったようで、ペンを抱えるように持ちノック部を何度も押している。

 出たり戻ったりするペン先を見てはキャッキャと楽しんでいるように見えた。


 そんなティセの様子を視界の隅に収めながら、海斗は自然と漏れそうになる笑みを堪え確認作業に戻る。

 他にも何かないかと鞄を逆さにして振ってみると――鞄の中からオイルライターが転がり出てきた。


「なんでこんな物が?」

 海斗はタバコを吸わない。と言うか大分前に止めている。理由はとても単純、それは一ヶ月分のタバコ代で――ゲームが一本余裕で買えてしまうからだ。

 一〇年以上前ならともかく、今となってはライターなど縁遠い物のはず。

 しかし考えた所で入れた覚えがない以上、なぜここにあるのかは分からない。

 恐らくどこかで紛れ込んでしまったのだろうと結論付け、取りあえずライターをズボンのポケットへとねじ込んだ。



 所持品の確認行った結果、少しだけ安心する。

 多少とはいえ食べ物、飲み物があるので、暫くは何とかなりそうだと分かったからだ。


 とは言え、余裕を持ってのんびりしていられるほど潤沢と言うわけでもない。

 勿論こんな意味の分からないダンジョンから、さっさと脱出できるならそれが一番だ。

 だが何一つ見通しが立たない現状では、楽天的に考えることのできる要素は存在しない。


「……まずは飲み水を何とかしないとな」

 人間は水と睡眠さえあれは二~三週間は生きられる。しかし水がなければ数日で命を失ってしまう。

 食料は勿論のことだが、海斗としては飲料水を可能な限り早めに確保したいと考えている。


 この場所を探索し出口を探しつつ、並行して生きるための必需品の確保も目指す。

 海斗はこれからの行動指針を定めると、広げていた荷物を鞄に戻そうとして――まだボールペンと戯れていたティセに視線を向ける。


「そろそろ良いか?」

 ティセは差し出された海斗の手の平に視線を向け、軽く頷く。


「んー? そだね、うんもう大丈夫。返すね!」

 彼女は抱えていたボールペンをこちらへ手渡してくれた。

 広げていた品々を順番に鞄へと収納していると、ティセは取り出していたとある物の前に降り立ち興味深そうに視線を向ける。


「ねえねえマスター。これ! これってなんなのかな?」

 彼女の指差した先にはブロック栄養食の箱。確かにティセが疑問に思うのも当然かもしれない。

 見た目はただの紙箱。これが何なのか理解している人でなければ、食べ物だと気付けなくても仕方ないだろう。


 そう言えば仕事が忙しく、昼から何も食べていなかったことを思い出す。

 探索を開始するのであれば、このタイミングで食事を取るのは悪い選択ではないだろう。

 海斗は空いていた箱の中に一つ残っていた銀色のパッケージを取り出す。開封するとその中には、スティック状の栄養食が二本入っていた。

 興味津々といった感じでこちらを見ているティセに、一本分のスティック栄養食を差し出す。


「……食べるか?」

 不思議そうにスティック状の栄養食に視線を向けるティセ。

 彼女が人間の食べ物を口にできるかは分からない。いやそもそも食事を取る必要があるのだろうか。

 彼女の生態はよく分からないが、一人だけ食事を取るというのも気が引ける。もし食事が取れるのなら一緒に食事をした方がいいと考えていた。

 しかしティセは差し出した栄養食に中々手をつけようとしない。


「えっと……いいの?」

 どうやら遠慮しているようだ。変なところで律儀なティセ。思わず苦笑いしながら口を開く。


「ああ、遠慮しなくてもいいぞ」

「ありがとうマスター♪」

 海斗から栄養食を受け取ると、ティセは恐る恐る口をつけ――その表情を変える。

 パァッと音が出るのではないか。そう感じさせる満面の笑み。


「おいひぃ、おいひぃよぉ~~~~!!」

 小動物のようにハグハグとブロックを噛み砕いていくティセ。

 まるで食事中のリスのように頬を膨らませており、本当に美味しいと思っているのが伝わってくる。


 そんな姿にほっこりしていると、あっという間に食料を平らげたティセがこちらをじーっと見つめていることに気付く。


 先程までの遠慮していた姿はどこに行ったのだろう?

 口元に指を当てながら、その視線は海斗の手元に注がれている。

 ブロック栄養食に左右に振ると、彼女の視線もそれを追うように動く。

 ティセは口元から涎でも流しているのではないか。そう錯覚させるような熱視線を向けてくる。


「はぁ……少しだけだぞ?」

 根負けした海斗は手元のブロック栄養食から三分の一程度をちぎり、ティセに向かって差し出す。


「……!? ありがとうマスター! 愛してるー!!」

 どうやら先程までの仕草は狙ってやっていた訳ではなく、自然と出た行動だったようだ。

 輝くような笑顔を浮かべながら、受け取った栄養食をティセは頬張る。

 彼女の様子を眺めながら、海斗もティセにならってブロック栄養食を口に運ぶ。


 食事を取りながらも、これからの行動に関して思考を巡らせはじめた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 展開が遅い。ダンジョンの話しするのに無駄に時間かけすぎ。三人称なので読む期しない。さいなら~
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