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彼女の気持ち①

「そろそろ戻ろうか」

 何度か戦闘を繰り返し、歌恋が『レベルアップ』したタイミングで帰還しないかと切り出す。

 彼女の様子を見る限り、このまま声をかけずにいればずっと狩りを続けそうな気配があったからだ。


「えっ、もうですか?」

 どうやら海斗の考えは正しかったようだ。

 その反応から、まだ戦いたかったと言う気持ちが明確に伝わってくる。


 強い緊張と、その後に訪れた強くなったと言う達成感。

 恐らくアドレナリンが大量に分泌され、疲れを感じにくくなっているのだろう。

 そんな状態では本人が大丈夫だと思っていても、無理をして体調を崩してしまう可能性が高い。

 何とか彼女にも納得できる理由を作る必要があった。


「あー、多分だけど結構時間も経ってると思うぞ?」

「……あっ! 本当だね!! アタシ何だかお腹すいて来ちゃったよ!」

 ティセは両手でお腹を押さえながら、アピールする。

 ナイスフォローだ。海斗はスマホを取り出しながら、そう考えていると――


「う~ん。何を食べよっかな~」

 口元に人差し指を当てながら、考える様子を見せるティセ。

 ――もしかすると、フォローではなく本当にお腹がすいているのかも知れない。

 だが助かったことに違いはない。ティセの頭を指先でポンと軽く叩きながら、スマホの画面を歌恋に見えるよう差し出す。


「本当、ですね。もうこんな時間……普段だったら寝ちゃってます……」

 歌恋に差し出したティスプレイには二三時五四分。表示された時間は、もう少しで日付も変わることを示していた。


 咄嗟にひねり出した理由にしては非常に良いものではないだろうか。

 思わず自画自賛したくなってしまう気持ちを抑え話を続ける。


「無理しても仕方ないし、今日はもう終わろうか」

「……でもあと少しだけとか?」

 頭では理解出来ていても、少しだけならと考えてしまうのは仕方ないことだろう。

 こればかりは限界まで無理をする機会がなければ分からないのかも知れない。

 何かあってからでは遅い。それに――


「…………!?」

 驚き絶望の表情を浮かべるティセ。

 彼女に視線を向けると、歌恋もそれに気付いたのかハッとした表情を浮かべた。

 少し変化した空気を察知し、納得してもらうため可能な限り影響の出ない範囲で譲歩する。


「帰り道にモンスターが出るかもしれないし、その時は任せるから、ね?」

「はい! そういうことでしたら!!」

 どうやら納得してくれたようだ。

 彼女の気が変わらぬ内にと、素早く撤収を開始した。



 ――敵が全く現れない。

 今まではこちらから積極的にモンスターを探して狩ることはなかった。

 もしかすると、周囲のゴブリンを狩り尽くしてしまったのかもしれない。


「…………」

 拠点となるカフェに近づくにつれ、歌恋の口数が少なくなっていく。

 最初は弓を空引きしながら、敵の到来を待ち構える様子を見せていた。

 しかし、今では気分が沈んでしまっているのだろうか。何かを考えるような仕草を見せている。


 このままの空気でいるのが良くないと言うことは海斗にも理解出来た。

 二人の間に流れる空気を切り替えるためにも、何か話題を振らなければと思考を巡らせ――あまりにも難易度の高いミッションに頭を抱える。

 他の人にとっては大したことではないのかも知れない。だが海斗にとってそれはとても難しいことだ。


 助けを求めるように、肩口のティセに視線を向ける。

 しかし彼女も空腹からだろうか、両手で肩にぶら下がるよう脱力しており言葉を発することはない。

 ティセの助けは期待出来ない。しかしここで気の利いた、以下略。つまりそういうことだ。


「えーその……」

「あっ、もう着いちゃいましたね」

 タイミングが悪い。口を開こうとした瞬間、カフェに辿り着いてしまった。

 機を逸してしまった感に思わず落ち込みそうになってしまう。

 だが、海斗に落ち込む暇はなかった。


「あの……海斗さん、少しだけ話を聞いて貰ってもいいですか?」

 歌恋は神妙な様子で言葉を紡ぐ。一体なんの話だろう。

 ――もしかして、戦闘を中断し帰還を切り出したことに関してだろうか。


 いやそれはないだろう。短い期間とは言え一緒に行動しているのだ、海斗が何か考えがあって提案したことは理解していると思う。

 だが海斗には他に思い浮かぶ話題はなかった。

 事前に解答を考えられないことには不安を感じるが、今は彼女の話を聞いてみるしかない。


「ああ。俺で良ければ」

 頷きと共に答えると彼女は短く感謝の言葉を口にし、海斗を先導するようにカフェの扉をくぐった。

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