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歌恋の才能⑤

「やったね歌恋ちゃん! スキルを覚えてるみたいだよ!!」

「本当ですか!!」

 歌恋は声を弾ませながら、海斗の手元を覗き込む。


 一ノ瀬歌恋 レベル:3

 スキル:弓術(初級) ???


 ティセによって海斗のスマホに表示されたステータスには、新しいスキルが生えていた。

 もしかすると戦闘スタイルが、レベルアップ時に得られるスキルに影響を与えているのかもしれない。


 海斗自身、そして歌恋の所持するスキルからその傾向が感じられる。

 目の前には、すぐにでも『レベルアップ』の効果を試したがっている歌恋の姿。

 口には出さないが、そわそわとした仕草から、簡単にその心情を読み取ることができた。

 海斗でさえ普通に察せているあたり、その感情の大きさを物語っている。


「……次に行こうか」

「はい!!」

「それじゃあティセ。頼んだ。」

 他の選択肢を選べるはずもない。海斗の言葉に笑顔で頷き、ティセは敵の気配を探り始めた。



 ――俺がいる意味ってあるんだろうか。

 素直に今の海斗の心情を伝えるなら、他に表現する言葉が見つからない。


 簡単に流れを説明するとこうだ。

 ――ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン。バタバタバタバタ。敵は死んだ。


 もう少し分かり易く説明するのであれば、モンスターを見つける、移動する、視界に入る、矢が刺さる、敵は死ぬ。

 何を言っているのか分からないと思うが、これは嘘偽りない事実だ。


「海斗さん? どうかしたんですか?」

 屈み込み――先程までゴブリンの頭に刺さっていた――矢を拾った歌恋が不思議そうに声をかけてくる。

 海斗の浮かべる何とも言えない表情に疑問を覚えたのだろう。


「いや。何でもないよ。うん、なんでもない」

 しかし聞かれた所で答えられるはずがない。

 題するなら『美少女JKアーチャーが無双過ぎて俺氏空気な件』と言ったところだろうか。

 そんなことを口にする訳にも行かず、曖昧な笑顔でお茶を濁す。


「……? それならいいんですけど」

 歌恋はどこか腑に落ちない様子を見せるが、すぐに明るい笑顔を見せ口を開く。

「次も私に任せてくださいね! 今まで海斗さんに護ってもらった以上に頑張りますから!!」

 純粋に強くなれたことが嬉しいのだろう。


 少し前まで戦ったことなどなかった少女。

 それが今では『小鬼の短弓』を使って、凄まじい勢いで敵を殲滅している。


 短刀を使い、初めての戦闘を終えてからまだ一時間も経っていない。

 短時間でこれほど大きな変化を遂げることなど、人生の中でもそうそう経験出来るものではないと思う。


「ああ……うん。期待してる……よ」

 彼女の心情が理解出来るだけに、手加減して欲しいなどと言い出すことは出来ない。

 こちらの心情を察したのだろうか。ティセが優しく海斗の肩を叩いて首を振る。

 海斗はただ歌恋の言葉に頷くことしか出来なかった。



 それからも歌恋の無双タイムは続き、海斗は路傍の石――いや前衛としての仕事を全うする。

 ――敵が一切近づいてこない状態では、ティセの頭を撫でるくらいしか出来ることはないのだが。


 あれから恐らく三〇分ほどが経過しており、倒したゴブリンの数は八匹。

 勿論、その全てを歌恋が討伐している。

 視界に入った瞬間、射殺されるゴブリン達。

 正にサーチアンドデストロイ。基本的に海斗の出番はない。


「あっ、海斗さん! 来ましたよ」

 ――遂に例外となる活躍の場がやってきた。

 今の海斗が担うことの出来る唯一の役割。それは――弓ゴブリンからの矢筒回収、だ。


 沈みそうになる気持ちを無理矢理盛り上げる。

 海斗に出来ることと言えば『いかに華麗に敵の武装解除出来るか』などと言う謎の競技を開催するだけ。


 もはやポーターと成り果てた海斗は何とも言えない気持ちを抱くが、歌恋が喜んでいるのが唯一の救いだった。

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