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歌恋の才能④

 開いた口が塞がらないと言う言葉は、正に今の海斗のような状況を指すのだろう。

 中途半端な高さに持ち上げられた『親分の大剣』からも、その困惑が伝わってくるようだ。


 手を振りながら駆けてくる歌恋と追従するティセの姿が視界に映る。

 だが海斗はどうすれば良いのか分からず、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「海斗さーん。どうですか? 結構良い感じでやれてたと思うんですけど……」

 歌恋は窺うように尋ねてくるが、目に見える戦果を出せたからだろう内心の喜びが見て取れる。


「あ、ああ。何て言えば良いのか……」 

 弓と言う武器は、これ程までに圧倒的な殲滅力を持つものなのか。

 彼女に何と伝えるのが正解なのだろう。驚きに支配された頭では明確な答えを考えることが出来ない。


「あれ? もしかして私、何か不味いこと……しちゃいました?」

 歌恋の表情に影が差す。彼女の行動に不味い部分など何もなかった。

 誤解させ悲しませる訳にはいかない。強い感情に突き動かされ、回らぬ頭で言葉を返す。


「そんなことないよ! 凄すぎて、言葉が出なかったんだ」

「凄い、ですか? えへへへ……海斗さんからそんな風に言われたら照れちゃいますね」

 至らぬ言葉でも喜んでくれる歌恋に、優しい気持ちが込み上げてくる。

 何とか気持ちを伝えようと、海斗は思い浮かぶままに言葉を紡いだ。


「いやいや、百発百中って感じで援護も完璧だったし、少し習っただけでこれだけ出来るとか……」

「あっ! それなんですけど、多分『レベルアップ』のお陰なんじゃないかと思います」

 ――いくら驚いていたとはいえ、少し考えてみれば分かるはずのことだった。

 どれだけ弓の腕が優れていたとしても、狙った場所に当てるというのは相当に難しい。それもあれほど連続してだ。


 海斗は以前テレビで見たオリンピック放送を思い出す。

 それはアーチェリーの選手が、的に向かって矢を撃っていた映像。

 世界有数の技術を持つ者でも、狙いを外すことがあった。

 それが止まっている的であっても、だ。


 だが歌恋は動いているゴブリンを連続して射殺している。

 まだ彼女が学生であることを差し引いても、異常過ぎる実力だった。


「何て言えば良いのか難しいですけど、途中から弓を構えただけで矢がどこに飛んでいくのか分かるようになったんです!」

 なるほど。理屈は全く分からないが、歌恋が言うならそう言うことなのだろう。

 つまりそれは――


「もしかすると、それって歌恋の特殊能力なのかも?」

「私にも特別な力が……海斗さんと同じ……えへへ」

 思い至った結論を口にすると、歌恋は何故か嬉しそうに笑った。

 どうしてそんなに嬉しそうなのだろう。その理由を問いたい気持ちにかられ、海斗は口を開き――


「あっ……今『レベルアップ』って声が!」

 ――紡ごうとした言葉は歌恋の声にかき消される。

 なぜ理由を知りたかったのか。答えを知ることが出来ず、残念な気持ちを覚えたのか。

 海斗には自身の心の動きが理解出来ない。

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