レベル上げ④
首を刎ねたり、胴を真っ二つにする海斗も大概だが、無慈悲な一撃を放った歌恋も負けてはいない。
「見てください! 私だってやれば出来るんです!!」
彼女はこちらに向かって駆け寄ってくると、頬に付着したゴブリンの返り血を気にすることもなく無邪気な笑顔を浮かべていた。
『いざとなったら女の方が強い』職場で同じチームだった、妻帯者の言葉が脳裏を過ぎる。
普段は話しかけて来ないくせに、愚痴を言いたい時だけ寄ってくる同僚。
あの時は内心『知るか』と思っていたが、今の状況を経験した海斗であれば次は素直に同意出来そうだ。
少し呆気に取られてしまったが、冷静に今の状況を考えれば彼女の様子は頼もしい限りだろう。
「ああ。これからは一緒に戦っていこう」
「はい!!」
明るく返事を返す歌恋を見ていると、頬に付着したモノが淡い光となって消えていく。それはとても幻想的で思わず見とれてしまいそうになる。
もっと眺めていたい気持ちに駆られるが、今は先に確認すべきことがあった。
名残惜しいと感じる心を振り切り、自らが討伐した弓ゴブリンの倒れていた辺りを確認する。
「……やっぱり予想通りか」
落ちていたそれらを拾い上げ、歌恋に向かって振り返る。
「……海斗さんの持ってるそれって」
彼女の指差す先には、ゴブリンが装備していた弓と矢筒。
海斗は自身の想定がほぼほぼ間違いだろうと考える。
まだ検証回数が足りないため、絶対とは言えない。
だが三度続いている以上、その可能性は高いと考えられる。
「ああ、ドロップアイテムってヤツだな」
そう、海斗が考えていたのはモンスターがアイテムを残す条件に関して。
ティセはマナがダンジョンに吸収される時、たまにあると言っていた。
ホブ達と戦った際に入手出来たのは『親分の大剣』のみ。
討伐した数を考えれば、多少なり他のゴブリンがアイテムをドロップしても良いのではないかとも思える。
――十九分の一。運の問題も絡むのであれば不思議な数字ではない。
だがなぜ一番レアだと思われる大剣だけが入手出来たのだろう。
勿論運が良かったと言うことは出来るだろう。しかし残念なことだが、はっきり言って海斗の運は――悪い。
ならばそんな不確定なモノのお陰と考えるよりも、別の原因を探す方が建設的だ。
では何が違ったのだろう。海斗が考え思い至ったのは、討伐時に装備がどうなっていたのか、という部分だった。
『親分の大剣』を入手した時、大剣はホブの元にはなかった。海斗が奪い、ホブの討伐に使用していたためだ。
一番最初に入手した『小鬼の短刀』はどうだっただろうか? あの時は必至だったので正確には覚えていない。
だが馬乗りになって何度も殴打したことから、息絶えた時に武器を手放していた可能性が高い。
そして今回の実験成果、手元の――『小鬼の短弓』に意識を向けながら考える。
まだ何度か検証を繰り返す必要はあるだろう。
もしかすると、ただ単に運が良かっただけと言う可能性も捨てきれない。
だがもしこの法則が正しいのであれば、今後のダンジョン探索を優位に進められるだろう。
海斗はこのゲームのような世界で生き抜くための、一つの光明を得た気がした。