目覚めた先は③
「マスターが引いた事前登録ガチャってメールで通知が来てたでしょ? あれってかなりのゲーム好きだけにしか届かないらしいんだ~」
なるほど。海斗は頷きティセの言葉に納得する。
確かにゲームに興味のない人間に送っても削除されてしまうだろうし、少し好きな程度でもスルーされてしまう可能性が高い。
ガチャを回して貰うことを考えるのであれば、かなりのゲーム好きにメールを送る方が間違いないだろう。
「それでアタシを当てちゃうんだもん。相当ゲームが好きなはずだよ!!」
ゲームが好きなこととティセを引き当てることの因果関係はよく分からない。
しかし彼女の本当に嬉しそうな表情を前にして、その言葉を否定することは出来なかった。
「あっ、話が逸れちゃったね。それで……えっと、何の話をしてたんだっけ?」
コテンと首を傾げながら問いかけてくるティセ。
彼女が話の内容を忘れてしまうのも仕方ない。
話を違う方向に持っていってしまった、海斗が全面的に悪いのだから。
「あー、ダンジョンが何なのかって話だな」
「そうだったね! ゴメンゴメン。ついうっかりしちゃったよ~」
ティセはてへぺろ、と言わんばかりの仕草を見せた。
愛らしい見た目も相まって、あざといポーズも可愛らしく見える。
ついつい気持ちが和んでしまい、優しくティセの頭を撫でる海斗。
「えへへへ♪」
笑みを浮かべるティセの姿にほっこりしながら、暫くの間二人は戯れていた。
「……あっ!?」
ハッとした表情を見せたティセは姿勢を正し、海斗に向かって視線を向ける。
――少し寂しい気がするのは気のせいだろうか。ついついティセのことをじっと見つめてしまう。
きっと同じミスを繰り返すことが嫌だったのだろう。彼女はこちらの視線に気付くと、慌てて口を開く。
「えっと、ダンジョンの話だったよね? 簡単に言っちゃうとゲームの中に出て来るダンジョンと同じ感じかな」
なるほど、よく分からない。だが何となくイメージは出来る。
頷き、理解したことを彼女に伝える。
「それでマスターは、他に聞きたいことはないのかな?」
ティセはこちらの反応に満足したのだろう。ニコニコと無邪気な笑みを浮かべながら、海斗に問いかけてくる。
他も気になることはある。だがそろそろ一番重要なことを聞いておくべきだろう。
海斗は神妙な表情で言葉を発する。
「そうだな。……この場所から出るにはどうしたらいいんだ?」
先程スマホの画面を見たときに気が付いた。
――アンテナが一本も立っていないということに。
この場所には電波が届いていない。都内でスマホが使えないなど、普通なら想像も出来ない異常な事態だ。
しかし今居る場所がダンジョンであることを考えれば、どんなことが起こっても不思議ではない。
外から助けを呼ぶことは出来ない。海斗はそのことを受け入れるしかなかった。
だからこそ彼女が解決策を持っていることに、期待せずにはいられない。
「ダンジョンから出る方法? そんなの簡単だよ」
流石はティセ。困った時に頼りになる。海斗はまるで女神でも崇めるように、期待に満ちた目を向けながら彼女の言葉を待つ。
「出口から出れば良いんだよ!」
「…………」
ティセの答えに思わず唖然としてしまう。流石にその答えはない。
「あ……あれー? アタシ何か間違っちゃった?」
険しくなっていく海斗の表情に気付いたのだろう。
彼女は焦った様子を見せ、アワアワと慌て出した。
「はぁ……つまり、出口を探す以外に方法はないって事だな?」
短い時間の付き合いとはいえ、ティセに悪気がないことは理解していた。
彼女は必死にこちらの質問に答えようとしてくれている。
ならば感謝こそすれ、ここで怒るのは筋違いというものだろう。
「そうそう。どのくらいの広さがあるか分かんないけど、絶対どこかに出口はあるはずだよ!」
海斗が怒っていないことに気付いたのだろう。ティセは笑顔を見せながら、頷き答える。
なぜ絶対に出口があると言い切れるのかは分からない。
だが恐らくダンジョンとはそういう場所なのだろう。
細かいことは分からないが、今はティセの言葉を信じるしかない。
「そうなるとまずやるべきことは……」
海斗は少し離れた場所に落ちているショルダーバッグへ近づき拾い上げる。
「……?」
何をするんだろう。そう問いかけるように、小首を傾げながら海斗に近づいてくるティセ。
彼女に視線で合図を送ると、地面にあぐらをかいて座り込み膝の上でバッグを開く。
次に行うべきこと、それは荷物を確認すること。
これからどう行動するにしても、何が手元にあるのか確認しなければ始まらない。
海斗の中に入っている物を、順番に地面へと並べていく。