束の間の休息③
ステータス。それはファンタジー作品で定番の言葉。
自らの能力を数値で表わすことで、視覚的にも感覚的にもその能力を分かり易くするためのものだ。
彼女が叫びたくなる気持ちも理解できる。海斗の表情はまるで仲間でも見るかのように慈愛に満ちたもの。
自身も通った道を思い返しながら、どうフォローすべきかと思案する。
しかしすぐに答えは出せず、考えている間も時間は経過し――
「…………ッ!!」
――歌恋の頬が徐々に朱を帯びていく。
海斗は何か声をかけなければと焦りを覚える。ここは年上らしくフォローをすべきだ。そう年上らしく――
「ど、どんまい?」
「……ッ!!」
歌恋は両手の平で顔を覆い隠し俯いてしまう。
変に気遣って無駄にポップな言い方をしたことが裏目に出る。
悲しいかなここで華麗にフォロー出来る人間なら、もっと楽な人生を送ることができただろう。
居心地の悪い空気が流れる中、海斗は自身の行いを後悔し天を仰ぐ。
最早時間が過ぎ去るのを待つしかない。そんな考えが脳裏に浮かび――
「ねえ、マスター。それ……ステータスーって流行ってるの?」
状況を変えたのはティセの発した言葉。
この流れに乗らない手はない。自らの恥部を晒すことになってしまうが、歌恋一人がつらい思いをするよりはマシだろう。
それに今の海斗のコミュニティレベルでは、この状況を改善する他の手段など思いつきそうにもない。
意を決し海斗は口を開く。
「あーそのなんだ。流行ってるって言うか、定番って感じだな」
「なるほどね~だからマスターもやってたんだね~」
納得の表情を見せるティセ。
「えっと……もしかして海斗さんも?」
顔を上げた歌恋は恐る恐る問いかけてくる。
頷き答えると、彼女は軽く息を吐く。
恥ずかしさと仲間意識が混濁とし、言葉に言い表せない表情。
歌恋は海斗と顔を見合わせ、はにかむように笑う。
そこに先程までの重い雰囲気は存在せず、穏やかな空気が流れ始めていた。
「……流石にステータスは表示されないみたいですね」
気を取り直した歌恋が口を開く。
彼女は先程までの出来事はなかったことにしたようだ。
流石にここで突っ込んだりはしない。スルーされた内容は海斗にとっても触れて欲しくないことなのだから。
ならばここは同じように対応するべきだ。いくら対人能力が低いとは言え、その程度の配慮が出来るデリカシーは持ち合わせている。
「そうだね。流石にそこまで都合良くは行かないか……」
「残念ですけど、仕方ないですよね」
歌恋は残念そうと言うよりは、失敗を流せたことに対してほっとしているような気配を感じる。
今度は上手く行ったと、海斗が心の中で軽く息を吐いていると――
「えっと……歌恋ちゃん、ステータスを見たいの?」
海斗の肩に腰かけ二人のやりとりと眺めていたティセが声を声を上げる。
「えっ? 見られるんですか?」
「うん。見られるけど?」
当たり前の様に答えるティセと嬉しそうな表情を浮かべる歌恋。
そんな二人の姿を視界に納めながら、海斗はティセの発言に驚きを覚えていた。
それは自身以外のステータスまで、確認できると考えていなかったからだ。
「マスターマスター! スマホ、スマホ出してよ!」
驚き固まる海斗の服を引っ張るティセ。彼女に促されるまま、曖昧な返事と共にスマホを取り出す。
ティセがディスプレイを操作するとそこには――
一ノ瀬歌恋 レベル:2
スキル:
海斗と同じ形式で歌恋のステータスが表示されていた。
「う~ん。数値で分からないから、判断が難しいですよね……それにこのスキル欄にある『???』ってなんなんでしょう?」
何となくは分かるものの、詳細が表示されないステータスで判断は難しい。
しかしそんなことよりも、歌恋のステータスにも海斗と同じく『???』の表記が存在しているらしい。
ティセに視線を向けるが彼女にも『???』は見えないようで、首を左右に振る。
どうやら海斗の『???』と同じ仕様のようだった。
「あーそれ、俺のステータスにもあるんだけどよく分かんないヤツだね。ちょっと現段階では判断できないかな」
『???』のことは一旦棚上げするとしても、ステータスの影響は把握しておかないと後々問題が起こる可能性がある。
面倒ではあるものの、早めに今回の『レベルアップ』に関して検証する必要があるだろう。
己の力を正確に把握していないせいで、これから先何かあったら目も当てられない。
能力の把握も勿論重要だが、今後もしホブ以上の強敵が現れたとしたら。
もし自分が敵に敗れてしまった時、歌恋はどうなってしまうのか。
万が一を考えるなら、彼女も逃げることができる程度の力は身に付けておいた方がいい。
「歌恋もレベルを上げてみる気はないか?」
海斗は今後のことを考え、彼女に対して提案する。
「レベルをですか?」
「ああ。これから先のことを考えるなら『レベルアップ』は必須だと思うんだ。俺も可能な限りサポートするし、一緒にレベルを上げてみないか?」
「確かにそうですね。……もし次、今回みたいな強敵が出て来た時は私も力になりたいですし……是非お願いしたいです!」
少し迷う素振りは見せたものの、歌恋は強い意思を感じさせる声で答える。
その瞳には決意の炎が宿っており、頼もしさを感じた。
海斗は彼女の言葉に頷くと、荷物をまとめながら次の行動予定に関して思考を巡らせ始める。