束の間の休息①
「海斗さん! 見てくださいよこれ!」
カフェ内で発見した物を集めて、二人順番に見せ合う様に確認していく。
興味深そうに唇に指を当てながら甘味に視線を向けるティセ。彼女の頭を軽く撫でながら目の前に広げられたものに目を向けた。
まず最初に差し出されたのは、生クリームにトッピング用のチョコレート。
歌恋は本当に嬉しそうな表情をしている。少女が甘味を求めるのはいつの次代も同じようだ。
カロリーが確保出来るだけでなく、疲れた身体に甘味は非常にありがたい。
一人でスイーツの食べ放題に――友達がいないから一人なのだが――行く程度には海斗も甘味を好んでいる。
表情には出さないが、内心でガッツポーズを取っていた。
「いくら海斗さんでも、これより良い物は見つけられてないですよね!」
どこか勝ち誇った表情を浮かべる歌恋。
もし会社の同僚がこんな感じで言って来たなら、イラッとしていたかもしれない。
ただ歌恋がそうしている分には、可愛らしいと感じるだけだ。
とは言え、年上の威厳を見せるためにもここは大物を出さねばならないだろう。
「ふふふ……これを見てもそんなことが言えるかな?」
「ふっふっふ~。マスターのはすっごいよ~」
戦利品を取り出す海斗の前で自信満々に胸を張るティセ。
なぜ彼女がそんなに誇らしげなのだろう。いやパートナーである以上、それも当然か。
海斗はそんなどうでも良いことを考えながら、歌恋に戦利品を披露する。
「それって……」
満を持して取り出したのは、ビニールでパッケージされた商品。
彼女はマジマジと海斗が差し出したものを確認し――ハッとした表情を見せる。
「……もしかして!?」
「そう、おでんだ!! 大根、こんにゃく、卵に、練り物……正に食事って感じだろ?」
「わあっ凄いです! ……でも、どうしてカフェにおでんが?」
首を傾げる歌恋。何故カフェにおでんがあるのかは海斗にも分からない。
だが、今の状況で固形物。それも普通に食事と言っていい物が手に入ったのは非常にありがたいことだ。
「まあ、よく分かんないけど今の状況的にはありがたいだろ? あとはスープなんかもあったぞ」
差し出したのはミネストローネにクラムチャウダー。
最近のカフェはよく分からない物を出すんだな。と思いながらも、都合が良いので深く考えないことにした。
「冷たくても美味しい物なんですね……」
「確かに意外とイケるね。……本当は温められればいいんだけど、流石にガスを使うのはちょっとね」
「確かに、何かあったら怖いですもんね」
二人で冷たいおでんを食べながら言葉を交わす。
この店舗は都市ガスではなくプロパンを使っている様なので、火を使えないこともない。
言うまでもなくおでんは温かい方が美味しく食べられるだろう。
しかし崩落のショックでボンベに異常が発生している可能性も考えられる。
閉鎖空間で万が一の事があると命に関わる。そのため温めることは見送っていた。
「……むぐむぐ」
ティセは海斗が分け与えたおでんをあっと言う間に食べ終えると、気にしていた甘味の攻略に取り掛かっていた。
彼女は特にチョコレートが気に入ったようで、口一杯に頬張っている。
リスの頬袋のように膨らんでいるが、溢すことなく綺麗に食事をしていた。
そんな姿にほっこりしながら視線を手元のおでんに戻す。
空腹は最高の調味料。だがそれ以上に一人ではない食事は特別なもの。
今の海斗にとって目の前のおでんは、温度など気にならないほど美味に感じるものだった。