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戦いの後③

 ――ゴウン。

 大きな鈍い音が響き渡り、建物が揺れる。


「えっ! な、何!?」

 両手を広げ驚きの表情を浮かべるティセ。歌恋も何事かと慌てて振り返る。

 二人の視線の先には――尻餅をつく海斗の姿があった。


「か、海斗さん!? どうしたんですか?」

 海斗は驚いた表情を見せているが特におかしな部分はない。しかし海斗の側には気になる物が存在している。


 それは音の原因となったもの。

 入り口に刃を食い込ませる『親分の大剣』だった。

 ずるずると刃がずれ、地に落ちる大剣。顔を赤くする海斗。


「え、えっと……」

 困惑している歌恋とティセに視線を向けると、何事もなかったかのように立ち上がる。

 そのままスタスタと一度外に出て大剣を外壁に立てかけると――


「さあ、食料を探そうか」

 再度、何食わぬ顔で建物内に立ち入った。

 どうやら海斗は今の出来事をなかったことにしようとしているようだ。


「え、え……ええっ?」

「あー……えーと、マスター?」

 どう対応すれば良いのか分からず、歌恋はアワアワと視線を彷徨わせる。

 ティセも困ったように、何とも言えない微妙な表情を浮かべていた。


「さあ、食料を探そうか」

 海斗の表情は満面の笑顔。

 何もなかった。何の問題もなく建物内に入った。そう強調するように、同じ言葉を繰り返す。


「は、はい。そう……ですね。食料を探さなきゃですね」

 どうやら歌恋はこちらの意思を尊重し、何も見なかったと記憶を改竄してくれるようだ。


「そ、そだね。歌恋ちゃんの言う通り、だね」

 ティセも彼女の言葉を踏襲し、仕切り直してくれるようだ。

 情けなさで思わず涙が零れそうになる。

 海斗は二人の優しさを感じながら、こっそりと目元を拭った。



「そんなに広くはなさそうですけど、どうしましょうか?」

 歌恋の問いかけに、どうするべきか考える。

 心に負ったダメージが多少尾を引くが、いつまでもそんなことを気にしている訳にはいかない。

 心機一転、海斗は建物内の様子を観察する。


 八畳程度の店舗面積を考えれば一塊になって確認しても、バラバラに確認しても大した違いはなさそうに思える。

 ただ持ち帰り専門とは言えカフェとして営業しているため、見える範囲でも棚にストッカーと確認する場所は多そうに見えた。


 そしてもう一つ気になるのが、室内のレイアウト。

 外から見ていただけでは気付かなかったが、店舗内は丁度半分位で区切られている。

 入って右側、壁面に面しているのがカウンター側、左側がバックヤードと言った感じだ。


 二人で横に並んで確認する分には問題無さそうだが、背中合わせに確認するには少し狭く感じる。

 ここは効率的に確認を終わらせるためにも手分けした方がいいだろう。


「そうだね。俺がバックヤード側から確認していくから、歌恋はカウンターの方から確認してって貰っていいかな?」

「分かりました。それじゃあ何か見つけたら声をかける感じで」

「ああ。多分大丈夫だと思うけど、もし問題があった時も声をかけてね。それでティセは……」

 何の迷いもなくティセは海斗に寄り添っている。

 わざわざ確認するまでもなく、こちらについてくるつもりらしい。


「……一緒に確認するか?」

「うん! 勿論だよ!!」

 念のため確認するが、打てば響くような明朗な答えが返ってくる。

 ティセを伴い分担場所へ向かう海斗の顔には、知らず知らずの内に笑みが浮かんでいた。



 店舗のバックヤードで屈み込み、何かないかと物色する。


「ねえねえマスター。この袋はどうだろ?」

 ずりずりと紙袋を引きずって来るティセ。


「その袋は……コーヒー豆みたいだな」

「コーヒー豆? それって食べられるの?」

「あー食べられないこともないと思うけど……食ってみるか?」

 袋から一粒コーヒー豆を取り出しティセに向かって差し出す。

 彼女は興味深そうに、直接海斗の指からぱくりと豆を口にする。


「……うえっ! にがっ!? ちょっ、マスターこれ何なのさ! こんなの食べられないよぉ!!」

 不満げな表情を浮かべるティセの頭を撫でながら物色を続ける。

 色々と見つかりはするが、飲料系の物ばかり。今求めているのは食べられる物だ。



「う~ん。全然食べ物はないね」

 暫く確認を続け分かったことは、どうやらこの辺りはドリンク系の在庫を保管する場所らしいと言うこと。

 海斗は立ち上がると腰をポンポンと叩きながら首を回す。


「あー、次の場所を探すか……あれ?」

 海斗の視線の先。バックヤードの最奥にはカーテンがひかれている。


「どうして壁にカーテンがかかっているんだ?」

 集中力が途切れてきたせいで、どうでもいいことが気になってしまう。

 間取り的に何もないのは分かっている。この先が壁であることは間違いないだろう。

 しかし気になるものは気になる。


「気になるならめくってみよっか?」

 そう言ってティセはカーテンをスライドさせる。


「……ん?」

 目の前に現れたものに視線を向ける。

 腕を組み顔を突き出す。目を半眼にしながらソレを見つめる。


「なんだこ…………えっ?」

「どしたのマスター?」

 最初は理解することが出来なかった。

 だが自身の目にしている物が何なのか理解した瞬間、言葉に出来ない感情が溢れ――


「なんですとぉぉぉぉぉぉおおおおおお!?」

「ふぇぇぇぇぇぇええええええええええ!?」

 ――海斗のあげた今日一番の絶叫とティセの驚きの声がシンクロした。

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