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カフェ奪還戦④

 どうして歌恋が!

 海斗は驚愕の表情を浮かべる。

 視線の先にはこちらに向かって駆け寄ってくる小柄な少女とそれを追うティセの姿。

 目の前で振り下ろされようとしていた、自身の命を狙う刃に一切意識が向いていない。


 なぜ。どうして。まだゴブリンが怖いんじゃないのか?

 あんなに震えていたはずなのに、歌恋の瞳に宿るのは恐怖以外の強い感情。

 それが何なのか海斗には分からない。

 だが心に抱いた感情が恐怖を上回り、一歩を踏み出す切っ掛けになったのは間違いないだろう。


「海斗さんから……離れろぉぉぉおおおお!!」

 歌恋は叫び声を上げてホブの注意を引こうとする。


「グルォ?」

 うずくまる相手より、未知の相手に興味を覚えたのだろう。

 ホブは目の前の海斗を放置したまま振り返る。そして歌恋の姿を視界に納め――その表情を醜く邪に歪めた。


 ――不味い!

 慌てて立ち上がろうとするが、身体はふらつき思うように動かない。

 保護すべき相手が危険にさらされているのに。


 彼女は普通の女子高生。戦う力などないはずだ。

 武器だって持っていない。身一つでどうやってホブに立ち向かうと言うのか。

 自らが攻撃を受けた時以上に、時間の流れがスローに感じる。


 ホブは振り上げていた大剣、大上段の構えを解きながら歌恋を捕まえようと空いた手を伸ばす。

 緩やかに彼女へ向かって伸びる巨大な手の平。

 だが歌恋に焦った様子はない。


 海斗の目には歌恋が鞄から手を抜き放つ様子が、明瞭に映った。

 ――何かを持っている? なんだ、あれは?

 その疑問はすぐに解消される。


「これでもくらえぇぇぇぇえええええ!!」

 歌恋がホブの顔面へと手にしたスプレーを噴射。赤い飛沫が空を舞い――


「グ……グルォォォォォオオオオオオ!?」

 ――ホブは悲痛な叫び声を上げ、涙を流しながら両手で顔面を押さえる。

 手にしていた大剣が大きな音を立てて地面転がった。


 海斗は考えていた。歌恋を守るのは自分だと。それはなんと傲慢な考えだろう。

 彼女は自らの意思で立ち上がり、守られるどころか海斗の危機を救ってくれた。

 歌恋の作ってくれた千載一遇のチャンス。

 ここで動けなければ男ではない。


「オオオオオオオオォォォォォォ!!」

 気力を振り絞り咆哮をあげると、動かなかった身体――その奥底に何かが灯るのを感じた。


「海斗さんっ!!」

 そして歌恋の声が海斗に力を与える。

 先程までの状況がまるで嘘であったかのように、身体が動く。


 奥底から溢れ出る活力のままに、低く駆け出しながら転がっている大剣に手を伸ばす。

 ズシリと感じる確かな重量感。

 本来の海斗では重くて扱えないであろう鋼の塊。

 だがこの一瞬だけでいい。悲鳴を上げる両腕を無視し、引きずりながら大剣を構える。


 本当に歌恋の声が力を与えているのでは?

 内から、そして外から、海斗は今までにない強い力を感じる。

 ジャリジャリと刃が地面と擦れる音。

 踏み込んだ足に力を込め、自らの身体を一振りの刃として解き放つ。


 腕の力だけではない。身体を捻り、全身のバネを使って大剣を振るう。

 風を切り裂く鋭い高音と共に放たれる一閃。


 海斗とホブの身体が交錯し――

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