目覚めた先は②
「なぁ……聞きたいことがあるんだけど」
「なになにマスター。アタシに答えられることかな? いいよいいよ、何でも聞いて!!」
話しかけられたことが嬉しかったのだろう。少女はハイテンションで、何でも聞いて欲しいと急かしてきた。
どう考えても目の前の少女には自我があるようにしか思えない。
やはりこれは現実。信じられないことが多すぎるが、いつまでも疑念を抱いていても建設的な考えに至ることは出来ないだろう。
。
さて何から確認すべきだろう。色々と気になっていることはある。
だがまず最初に聞いておくべきことがあった。
これを先に確認しておかないことには、気になってこの後の質問に差し支えるかもしれない。
「そうだな、まずは……なんで俺のことをマスターって呼んでるんだ?」
「あっ、そっか。うんうん、まずはそこからだよね。それじゃあまずは自己紹介した方が良いよね?」
うっかりしていたとでも言わんばかりに、少女は自分の頭をコツンと叩く。
あざと可愛らしい仕草。緩みそうになる気持ちを引き締め彼女の言葉を待つ。
「アタシの名前はティセ。マスターのサポート役だよ!」
さも当然のように少女――ティセは言い切ると、その場でくるりと一回転しポーズを決める。
「それでマスターをどうしてマスターって呼ぶのかって質問だけど、マスターはマスターだからマスターなんだよ」
海斗はティセが何を言っているのか理解出来なかった。
自分の理解力が足りないのだろうか。しかし分からないものは分からない。
「えっと……つまりどう言うことだ?」
「う~ん、何て説明すればいいんだろ……あっそうだ!」
ティセは何か名案でも思いついたのだろうか。少し離れた場所へと飛んでいくと、地面を大きな動作で指差す。
「ほらコレ見てよ、コレ!」
海斗が彼女の元へと近づいていくと、指差していたものの正体がわかる。
ティセが指し示していたのは、近くに落ちていたスマホの画面。
拾い上げディスプレイに視線を向ける。
そこに映し出されていたのは、目の前の少女と同じ容姿をしたキャラクター。
画面の下部には『ティセ』と表示されており、すぐ側にいる少女とこのキャラクターが同一の存在であることを示している。
視線を現実のティセに移すと、彼女は『どうよ』とでも言わんばかりに胸を張る。
自らの存在を主張したいのだろう。しかし小さいが小さくはないモノが強調され、その主張は違った意味で伝わってしまいそうだ。
「このガチャでマスターがアタシを当てたの。だからマスターはマスターなんだよ!」
自信満々に言い放ったティセは、どこか勝ち誇ったような表情を浮かべている。
ティセの説明には不明瞭な点が多い。
だがここまで会話が成立する以上、彼女が現実の存在であると認めるべきだろう。
海斗は恐る恐る、最終確認を行うために彼女に向かって指を伸ばす。
「やーーめーーてーーよーー」
――間違いなくこれは現実だ。
指先で触れたティセの頬は、ほのかな温かさとぷにぷにとした感触を返してくる。
嫌がっているように聞こえる言葉をティセは発する。しかし彼女は頬に触れる指をかかえながら、嬉しそうな笑顔を浮かべている。その姿は海斗が構ってくれることを喜んでいるようにしか見えなかった。
「それでこのガチャってのは一体何なんだ?」
気を取り直し気になっていることを確認していく。
「う~ん、事前登録ガチャ?」
「いや、それは知ってるけど……」
しかし返ってきたのは、期待とは違った答え。
詳しいことが知りたいのだと続きを促してみるが――
「えっと、アタシにも詳しいことは分かんないんだけど、そういうことらしいよ?」
可愛らしく小首を傾げながら答えるティセ。どうやら彼女にも詳しい所は分からないらしい。
このガチャに関してはそういうモノなのだ、と思うしかなさそうだ。
ただでさえ考えることは多い、それにティセも何でも知っていると言うわけでは無いだろう。今は彼女に分かることだけでも確認を進めるべきだ。
「じゃあこの場所について何か知ってることはあるか?」
先程の答えから想像するに、ティセがそれを知っている可能性は低い。
特に期待せずに聞くだけ聞いてみるか、その程度の気持ちで行われた問いかけ。
「ここはダンジョンだね」
――まさか答えが返ってくるとは。
当たり前のように語るティセに海斗は驚きの表情を浮かべながら、詳しい話を聞くために先を促す。
「……ダンジョン? それってどう言う意味だ」
「えっと……う~ん、世界の……これどう説明すればいいんだろ?」
腕を組みうんうんと唸るティセ。恐らく詳しく説明するのが難しい内容なのだろう。
何かを隠そうとしている訳ではなく、単純にどう説明すればいいのか困っているように見える。
「あっそうだ! マスターってゲーム好きなんだよね?」
ティセはポンと手を叩き口を開く。
紡がれた内容は海斗の趣味に関して。確かに彼女の言う通り、海斗はゲームが好きだ。
月末の新作ゲーム発売日を楽しみにしているし、コンシューマにPC、スマホにブラウザと様々な物に手を出している。
「……? どうしてゲームが好きだって思ったんだ?」
海斗はティセにゲームが好きだと話した覚えがなかった。
ここまでの会話で彼女が質問に対して真摯に答えてくれることを理解していた。
だからこそ回りくどい質問の仕方ではなく、ストレートに問いかけるすることを選択する。