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カフェ奪還戦③

本日二話目の更新になります。

最新話を見て頂いている方はご注意ください。

 ――一閃。

 攻撃を潜り脇を駆け抜けると、ホブの身体に赤い線が走った。

 海斗がホブの攻撃をかいくぐる度、大きな音を響かせながら大地が穿たれていく。

 幾度となく攻防を繰り返すが、戦いが終わる気配はない。


 やり難い相手だと海斗は思う。

 海斗の繰り出す刃は何度もホブに届いている。

 ここに至るまで戦闘の経験を積んで来たからこそ、命のやり取りに戸惑いはない。

 故に切っ先は迷うことなくホブを捉えており、確実にダメージは蓄積しているはずだ。


 しかし敵は怯むことなく攻撃を返してくる。

 今までの戦いであれば、既に決着はついていた。

 一撃でゴブリンを葬ってきた弊害。海斗は長時間の戦いに慣れていない。


 初めて対峙する互角以上の相手。幾度刃を受けても止まらぬ攻撃。連続し途切れることのない緊張感に心身が悲鳴を上げる。

 海斗が疲弊しているのはホブのせいだけではない。別の外的要因も影響していた。


 少し前ガッツポーズを取っていた自分に恨み言を言いたくなる。

 ホブに勝るスピードを生かしながら攪乱し、隙を狙っていくのが勝利への最適解。

 だが、周囲の状況がそれを許してくれない。


 問題点は先程まで自身にとって優位であると考えていた事象。

 ――倒した敵がその身体を残していることだ。

 穿たれた大地、動きを阻害するゴブリンだったモノ。

 自身の強みを生かし切れず、僅かずつだが飛礫による負傷が増えていく。

 だが焦って集中を切らすわけにはいかない。もし足を取られてしまえば一巻の終わりなのだから。


 やっかいな点は多々ある。しかし決して不利なだけではない。

 幸いなことにホブとの戦いで障がいになりそうだったゴブリンはもういない。

 海斗が倒すまでもなく、戦闘に巻き込まれ行動不能になってしまったからだ。

 目の前の相手に集中出来る状況は整っている。ならば今できることをミスなく続けるしかない。



 あれからどれだけの攻防を交わしたのだろう。

 一瞬のような気もするし、何時間も戦っているような気もする。

 ホブの強靱な肉体は刃を深く通さず、何度繰り返しても致命の一撃を与えることは出来なかった。


 今はまだいい。疲労はあるが身体は十全に動く。しかし拮抗したままでいられる時間は長くない。

 海斗の身体に蓄積されていく疲労。まだ大きな傷は負っていないが、このまま戦闘が続けば遠くない未来、限界が来るだろう。


 対峙するホブはその身の巨大さに比例して、体力もあると推測される。

 現在の状況も加味すれば嫌でも理解出来てしまう。

 ――先に体力が尽きるのは海斗の方であると。


 最早猶予はない。今仕掛けなければ、いずれ自身に敗北が訪れることは明白だ。

 次の攻撃で決める。分厚い筋肉の壁を打ち破り一撃で決着を付ける。

 狙うべき場所は急所――首もしくは心の臓。


 しかし海斗にはゴブリンの心臓がどこにあるのか分からない。

 残念ながら図鑑にも載っていないような異形の知識などあるはずがなかった。

 相手も人型をしている以上、臓器の位置も人間と大差はないと推測される。


 しかし次の攻撃には大きなリスクを伴う。今は一パーセントでも勝率を高めるべき局面だろう。

 ならば狙うべきは首。深く切り裂くことが出来れば確実に命を奪うことが出来るはずだ。

 ヤツの攻撃は大振りのものが多い。距離を開き、踏み込んで来たところにカウンターを合わせる。

 やるべきことは決まった。ならば後は実行するのみ。



 覚悟を決めると飛びのき、ホブと距離を取る。

 勝負は一瞬。

 極限を超えた集中力によって目に映る全てが、まるでスローモーションのように緩やかに流れる。

 大剣を振りかぶりながら一歩一歩大きな音を立て、海斗へと走り出すホブ。

 ヤツの歩幅で数えて三歩目。振り下ろされた大剣を足場に首を狙う。


 さあ来い! 一歩目が踏み出される。

 二歩目。焦るな、タイミングを計れ!

 三歩目。今だ!

 海斗が一歩を踏み出し――


 思うように上がらぬ足に違和感を覚える。

 スローモーションで流れる周囲の景色。

 自身の左足を掴む緑色の腕。それは飛礫を受け絶命したはずのゴブリン。


 どうやら死んだふりで何を逃れていたようだ。

 何故止めを刺さなかった!

 海斗は後悔するが、既に遅い。


 我が身に迫る袈裟斬りの一撃。

 必死に身をよじりながら直撃を避けるため、後ろへと飛ぶ。

 強い衝撃が走り、身体が大きく刎ね飛ばされる。


 地面を転がり壁際まで運ばれる海斗。

 全身に感じる強い痛み。致命傷ではない、まだ動くことは出来る。

 しかし体勢を立て直す間もなくホブが距離を詰め大剣を振りかぶった。


 海斗の表情に驚愕が浮かぶ。

 その視線の先には――

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