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カフェ奪還戦②

 醜悪な顔に緑の体表、身に着けた衣服は腰蓑のみ。

 その姿形はゴブリンと同じ特徴を有している。


 だが今までのどの個体とも明らかに違う。

 ドアをくぐって現れたのは、二メートルを超える長身に筋骨隆々の身体を持った存在。

 片手で大上段に構えた金属製の大剣は怪しい輝きを放ち、人間の身体をいとも容易く両断しそうな武威を感じる。

 一目見ただけで理解出来た。身に纏う強者の気配を。


 このダンジョン内で初めて出会った、自分を超えるかもしれない強者を前に海斗は身を震わせる。

 しかしそれは恐怖から来るものではない。


 ――武者震い。

 目の前に存在する強き者を打倒したいと言う原初的な欲求だった。


「……不味いな」

 だが呟く言葉には若干の焦りが見て取れる。

 このホブゴブリンとでも言うべき上位種は確かに強い。

 とは言え、絶対に勝てない相手ではない。

 自分より上位であることは間違いないが、十分に戦える相手だと感じていた。


 しかしそれは一対一で戦った場合の話。

 海斗が周囲に視線を送ると、ホブゴブリンの雄叫びによって飛び起きたゴブリン達が武器を構える姿が目に入った。

 大物に専念したい。だが状況的にそうはさせてくれそうもない。


 恐らく背を向けた瞬間を見逃してくれる程、目の前の敵は甘くないだろう。

 どうする? どう動くのが正解だ?

 海斗は戦術を練ろうとする。しかしそんな暇は与えられなかった。


「グルォォォォオオオオオオ!!」

 雄叫びと共に、大上段に構えた大剣を振り下ろされる。

 海斗はバックステップで距離を取るが、大地を穿つ一撃は回避したはずの身体に飛礫を飛ばす。


 驚くべき膂力。身体に感じる痛みを堪えながら、海斗は軽々と大剣を扱う姿に舌打ちをする。

 まともに打ち合ったとして、この一撃を耐えることが出来るのだろうか。

 恐らく難しいだろう。


 手持ちの武器は小鬼の短刀。切れ味はともかく、それほど刃渡りがある訳ではない。

 それに刀身の厚みを考えれば、短刀がへし折れる可能性さえある。

 スピードは海斗に軍配が上がるだろう。しかしパワーでは圧倒的な差があった。

 一撃でも貰うわけにはいかない。緊張感が周囲を包む。


 だが一つ嬉しい誤算がある。

 ホブの大地を穿った一撃。その余波が周囲のゴブリンにも及んでいた。

 六匹いたはずのゴブリン。しかしその半数は先程の飛礫をまともに受け、もんどり打って行動不能に陥っている。


 ニヤリと笑みを浮かべた海斗は、手に残っていた小石を全力で投擲した。

 吸い込まれるようにホブに命中する飛礫。してやったりと分かり易い笑みを浮かべる。

 大したダメージは与えられていない。

 しかし――


「……グゥルァァァアアアアア!!」

 ホブは怒りに震え声を上げる。

 自身よりも小さき者。明らかにひ弱そうに見える相手が牙を剥いた。

 そのことに対して生じた憤怒。

 狙い通りホブは感情の赴くままに大剣を振りかぶり、何度も振り下ろす。


 幾つかの飛礫が身体を打ち付ける。

 しかし海斗は何食わぬ表情で、その攻撃を回避していく。

 荒れ狂う暴威に晒され逃げまどうゴブリン達。

 だが彼らを襲う不幸はそれだけではなかった。攻撃を避けることに専念していたはずの海斗が、笑みを浮かべながら逃げるゴブリンの元へ接近し――


「グギャ!?」

 ――ゴブリンの頭を鷲づかみにし振りかぶる。


「――グッギャァァァァアアアア!?」

 全力の投球。まるでピッチャーマシンから放たれたかのような速度でホブを襲う。

 海斗が何気なく行った行為。それは異常な光景だった。

 少なく見積ったとしてもゴブリンは四〇キロ程度の重さがあるだろう。


 しかし海斗はそれを片手で、プロ野球選手のような勢いで投げる。

 恐らく球速は一〇〇キロを軽く超えていた。

 だがホブも上位種たる所以を見せる。


「……グルァァアア!!」

 雄叫び一閃。弾丸のように射出されたゴブリンを打ち返した。

 物凄い勢いで飛来するソレを海斗がひらりと避けると――


「グルォ!?」

 残された二匹ゴブリンを巻き込み壁に突っ込んだ。

 期せずして一対一。


 海斗は息を吐き、自身の状態を確認する。

 体力にはまだ余裕がある。飛礫を受け多少身体に痛みはあるが行動に支障が出るほどではない。

 多少足場に問題はあるが邪魔者は消えた。後は目の前の脅威と戦うだけ。


 狙い通りの状況に笑みを浮かべながら、小鬼の短刀を中段に構え姿勢を低くする。

 お互いの視線が交錯し――海斗はホブに向かって駆け出した。

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