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食料問題④

 三人で広間の様子を探る。


「全然動かないですね……」

 歌恋は右手で左腕をギュツと掴みながら、言葉を発する。

 理由は分からないが、確かに彼女の言う通りだ。


 暫く様子を見た限りでは、ゴブリン達にこの場所を離れる気配は見られない。

 中には退屈そうに広間をウロウロと歩いている個体もいるのに、だ。

 まるで誰かに『ここにいろ』と命じられたのではないか。そんな風に考えると納得しそうな状況。


「あのゴブリン。なんでここから動かないんだろうね~?」

「う~ん。そうですね、あっ、例えばあの建物を守ってるとか? ほら、あそこに立ってるゴブリンって、何だか門番みたいに見えませんか?」

 ティセの疑問に対して返された答え。それは海斗が想像もしていなかった意見だった。


 歌恋の視線を追い建物の方を見ると、入り口のドアを守るように二匹のゴブリンが武器を構えて立っている。

 その姿は正に門番。彼女の意見――建物を守っている――は非常に適切だった。


「……確かにそんな風にも見えるね。でもそうなると、あの中には何が……それに」

 言葉を切り海斗は何かを考える様子を見せる。その姿を見つめる歌恋の目には疑問の色が浮かぶ。


「何か気になることでもあるんですか?」

「ああ、今まで戦ったゴブリン達と何か違う感じがする」

 海斗は神妙な顔で語る。そうこの広場にいるゴブリン達には明らかな違和感があった。


「……えっと、それって?」

「何て言えばいいのか……統率されてる? そう、明確な意思を持って行動してるような気がするんだ」

 歌恋の意識が海斗に集中する。その表情は真剣で、発する言葉を一言も聞き漏らすまいと言う強い意思を感じさせるものだった。


「今まで戦ったゴブリンは、本能のままって言うのかな。深く考えずに行動してるような気がするんだ。でもアイツらは……」

 そう言って視線を広間に向けた。ゴブリン達は先程と変わることなく広場で待機している。


 初めて遭遇したゴブリンは、本能の赴くまま海斗のことを追いかけて来た。そこに理性の光はなく食欲に支配されているように見えた。

 歌恋を襲っていたゴブリンもそうだ。本能に従い、薄汚い情欲に濁った目をしていたような気がする。


 過去の光景を思い出すと、少しだけだが不快な感情が心の表層に顔を出そうとする。

 海斗は理解出来ていなかったが、それは初めて命を奪ったことに対してではない。歌恋が襲われたことに対する怒りの感情だった。


「藤堂さんの仰る通りかも知れないですね。でもそうなると他のゴブリンと何が違うんでしょうか?」

「正直言って、それは分からない。でも注意はした方がいいと思う」

 海斗の言葉に歌恋が頷く。


 油断してはいけない。慎重に機を見極め、確実に勝利しなければ。

 すぐ側を飛ぶティセ、そして隣に立つ歌恋に視線を送りながら海斗は考えていた。自分が彼女達を守るのだ、と。



 ゴブリン達の様子を窺っていると、門番役が欠伸を噛み殺している様子が見えた。

 ――もしかすると。

 そう考え固唾を飲んで見守っていると、広間にいたゴブリンの多くが壁を背にしたり床に寝そべり始める。


 耳を澄ますと小さくイビキが聞こえて来た。

 起きたままでいるゴブリンは門番役を含めて六。

 一斉に眠ってくれれば楽だったが、どうやらそこまで都合よくは行かないようだ。

 海斗は小鬼の短刀を握り締めると、目を閉じ深く息を吐き出す。


「そろそろ、行くか……」

 目を開き声を発すると、歌恋がビクリと反応する。


「あの……わ、私も……」

 全てを海斗に任せきりにしてしまうことに罪悪感を覚えたのだろう。

 だが歌恋は言い淀み、先の言葉を続けることが出来ない。


 よく見るとその身はプルプルと小刻みに震えており、まだその身に降りかかった恐怖から立ち直れていないことが見て取れた。

 だがそれも仕方ないことだろう。彼女はまだ海斗の半分も生きていない、少女と呼んでもよい年齢だ。


「いや、一ノ瀬さんはここで待ってて。囲まれたらマズイし様子を見てて欲しいんだ」

「でも、私……」

 歌恋は海斗の言葉にホッとした様子を見せ、すぐにその表情を歪ませた。

 気持ちは分からないでもないが、無理をさせたくはない。


「俺が気付かない内に背後を取られたりするかもだし、念のために……ね?」

 乗り越えるためには時間が必要だ。そう考え彼女の罪悪感を減らすため適当な理由を並べてみる。

 海斗は彼女が頷いたのを確認すると、静かに広間へと向かって歩き出す。


「……ティセ。一ノ瀬さんのこと任せたぞ?」

 すぐ側に浮かぶ少女にだけ聞こえるように呟く。


「うん! アタシに任せといて!!」

 ポンと胸を叩きながら、明るい声で答えるティセ。


 これで後顧の憂いはない。

 二人に背を向けた海斗の瞳には、獰猛な光が宿っていた。

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