もぐもぐタイム②
海斗はふと思う。こんな状況なのにティセが何の反応も示さないと。
先程までのことを考えれば、何か一言くらいあってもおかしくはない。
不思議に思い視線を動かすと、彼女は無言のままジーっとこちらを見つめていた。
一体どうしたのだろう。そう考えティセの視線を追ってみる。
するとその目は海斗が手に持つ、ブロック栄養食に向けられていることに気付いた。
既に手渡した食料は存在しない。ティセは身の丈ほどもあろうかという食料を、腹の中に収めている。
訴えかけるように、こちらを見つめる二つの瞳。
もっと欲しい。でも言い出せない。と言った感じだろうか。
状況的に食料は非常に貴重だ。歌恋との食事によって、残されているブロック栄養食は一箱分。
普通に考えれば、ここでティセに食料を渡すのは得策ではない。
だが彼女の存在に海斗は大きく救われていた。
もしティセがいなければ、最初にゴブリンと戦った時に心が折れていたかもしれない。
そう――海斗は彼女に深い感謝を感じている。
だからこそ叶えられる願いは可能な限り叶えてあげたいと思ってしまう。
「ほらティセ。半分だけだぞ?」
「……!? マスター、ありがと~♪」
流石に全く何も食べずに行動するのは不味い。そう考えた海斗は手に持っていたブロック栄養食を半分に割り、片方を差し出した。
ティセは満面の笑顔を見せながら食料を受け取り、勢いよく頬張っていく。
彼女の頭を優しく撫でながら、様子を見ているとあっという間にブロックが消失してしまう。
一体どこに消えているのだろう? ティセ様子を見ていた海斗の脳裏に、そんな疑問が湧きあがってくる。
愛くるしい雰囲気で小首を傾げる少女は、まだまだ何かを欲しがる表情を見せていた。
流石に何も食べずに探索するのは。そう考え躊躇していると――
「良かったらティセちゃん、半分食べる?」
そう言って歌恋がティセにブロック栄養食を半分差し出す。
「えっと……良いの?」
「はい。私はもうお腹一杯ですから」
歌恋のついた優しい嘘。しかしティセはそれに気付くことはない。
「わ~い! ありがと~!!」
嬉しそうな笑顔を浮かべるティセを見つめる歌恋の瞳は、とても優しい光を宿している。
それは我が儘な妹を見守る姉のようにも見えた。
そんな二人の姿を視界に映しながら、海斗の中に言葉に出来ない温かい感情が湧きあがる。
今まではティセ一人を護ればそれでよかった。だがこれからは違う。
普通に考えれば庇護すべき対象が増えることは負担になるだろう。しかし海斗はそう考えてはいない。
笑い合うティセと歌恋の姿を見ていると――彼女たちを護らなければと、強い使命感が湧きあがるのを感じていた。