救いを求める声③
目の前に残っているのは動きを止めた手負いの相手。
とはいえ海斗に油断はない。深く身を沈め、一瞬で敵との距離を詰める。
レベルアップの効果もあったのだろう、ゴブリン達は海斗の動きに全く反応できず一瞬で地に沈む。
命を奪う感触にはやはり慣れない。しかし感傷を抱くことはもうなかった。
海斗は手負いの二匹に止めを刺した後、警戒を解かず気配を探る。
周囲に敵意を持つ者は存在しないようだ。
どうしてそんなことが分かるのか。
海斗にもハッキリとした理由は説明できないが、何故か間違いないと確信を持っていた。
先程も感じたことだが、恐らくレベルアップによって直感や身体能力と言った能力が上昇している。
ここまで走った際の走力、そして一瞬でゴブリンを蹂躙した戦闘能力。
特に運動部だった訳でもなければ、格闘技の経験があるわけでもない。そんな海斗がこれほど容易く敵を倒せる理由は、レベルアップ以外に考えられなかった。
ただ一つだけ。直感に関しては、もっと早く仕事をして欲しかった――そうすればそもそもここに来ることもなかったのに――と思ってしまうのは仕方のないことだろう。
「大丈夫? マスター怪我はない?」
周囲の安全を確認し構えを解くと同時に、ティセが物凄い勢いで近づいてくる。彼女は心配そうに海斗の周りを飛び回りながら、声をかけてきた。
「ああ、大丈夫だ。ありがとな」
ティセの気遣いに感謝を伝え、その小さな頭をポンポンと撫でる。
「えへへ……別にお礼を言われるようなことじゃないよぉ~♪」
すると彼女は照れたように笑い、海斗の指先に抱きつきながら喜びの感情を見せた。
ティセの姿にほっこりし、戦闘によってささくれだった心が癒されていくのを感じる。
もう少し戯れていたいという気持ちが湧きあがってくるが、今は他に優先しなければいけないことがあった。
打ち倒した二匹のゴブリンが光の粒へと変わっていく中、少し離れた場所にいる制服姿の少女に向かって――
『レベルアップしました』
振り返ろうとした姿勢のまま、海斗の動きが静止する。
「…………」
まるでスマホに搭載されたAIのような無機質な声音。
二度目とは言え、いきなり声が聞こえると戸惑ってしまう。
「あれ? マスターどうしたの?」
動きを止めたことから何かあると悟ったのだろう。ティセが表情に疑問を浮かべながら声をかけてきた。
別に隠すようなことでもない。ここは素直に何があったのか伝えよう。
そう考えた海斗はティセに視線を向けながら口を開く。
「ああ。またレベル上がったみたいだ」
「やったねマスター! おめでとー!!」
すると彼女は満面の笑顔で祝福の言葉を伝えてくれた。
「どうするマスター? すぐにステータス、確認する?」
「いや、今はそれより先に……」
とりあえずレベルアップの件は保留にしよう。
確かにステータスの変化は非常に気になる。ティセの提案に乗りたい気持ちはあった。
だが海斗は湧きあがる興味をぐっと抑え込む。
今はそんなことよりも、少女と話をすることを優先するべきなのだから。