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今度こそ一緒に

「すごい……海斗さん前よりずっと、強くなってる……」


 目の前で繰り広げられる剣戟。

 その激しさに歌恋は思わず見入ってしまう。


 絶えることなく続く交錯し続ける斬撃。

 打ち合う刃から火花が舞い散り、両者の戦いを幻想的に彩っている。


 決して技術的に優れているわけではない。

 しかしそこからは、戦いの中で磨かれた武の輝きが見て取れた。


 海斗さんならこのまま。

 そんな期待が歌恋の中に浮かんでくる。


「歌恋ちゃんも協力して!!」


 勝利を祈る歌恋の元へとやってきたティセ。

 彼女は開口一番、歌恋へと助けを求めてきた。


「えっ……協力って?」


 突然の言葉に驚く歌恋。

 ここまでの攻防を見る限り、海斗とブヒートの実力は互角に見える。


 彼女から一体なにを求められているのだろう?

 意図が理解できず歌恋は困惑した表情を浮かべる。


「ホントはいろいろ話したいこともあるんだけど、あんまり時間がなくて……」


 ティセの指差す先に視線を向ける。

 そこでは歌恋の想像を裏切る事態が発生していた。


 先程まで拮抗していたはずの戦いの天秤が傾き――

 少しずつ海斗が押され始めてたのだ。


 大切な人に迫る脅威。

 護られるだけじゃない。彼のことを護りたい。

 溢れる想いが、歌恋の感じていたブヒートへの恐怖を打ち消した。


 しかし両者の戦いは激しさを増していく。

 素手で割っては入れるような状況ではない。

 下手に手を出そうものなら、逆に海斗の邪魔になってしまいそうだ。


「ティセちゃん! 私、どうすればいいの!!」


 きっとティセにはなにか考えがあるのだろう。

 そう考えた歌恋は彼女に視線を向ける。


「歌恋ちゃん! アレ持ってるよね、アレ!!」


 歌恋の問いにティセは答えを返す。

 しかしアレと言われても、それがなにを指しているのかわからない。


「あ……アレ?」


 首を傾げる歌恋。

 ティセは身振り手振りを交えながら、アレがなんなのかを伝えようとする。


「こう……このくらいの玉! 歌恋ちゃんも持ってるよね!!」

「それってもしかして……これのこと?」


 彼女の示すモノに心当たりは一つしかない。

 歌恋はお守り代わりに持っていた小さな玉を、ティセに見えるよう手の平に乗せる。


「それそれ、よかった~持ってるっぽい気配はしたんだけど、もしなかったらどうしようかと思ったよ~」

「……ねえティセちゃん。これ、どうすればいいの?」


 お守り代わりにしていた玉がなんの役に立つのだろう?

 不思議に思った歌恋は、ほっと息を吐くティセに続きを促す。


「えっとねーこれって、武器なんだよ! ほら、歌恋ちゃん弓持ってたでしょ! あれ、あれがこのマテリアルになってるんだよ!!」

「……?」


 ティセの発した言葉の意味が分からず戸惑う歌恋。


 確かにこの玉の中には、弓と矢筒のようなシンボルが刻まれている。

 しかし弓が玉――マテリアルになっているとはどういうことなのだろう。


「難しいことは考えなくて大丈夫だから! ぎゅって強く握って、武器になれーって思えば、それで大丈夫!!」


 ティセが嘘を吐くとは思えない。

 彼女の言葉を信じたい。

 しかし歌恋には、一つ引っかかることがあった。


「でも、さっき武器が欲しいって思ったとき、なにも起きなかったよ?」

「あー多分それ、マナが足りなかったんだよ……。でも今なら大丈夫なはず! ほら、マスターがたくさんモンスターを倒したし!!」


 どういうことなのか今ひとつ理解できない。

 しかしモンスターやダンジョンが関わる事柄は基本そういうものなのだろう。


 歌恋はティセの言葉に従い、マテリアルをギュッと握り締める。

 そして武器が欲しいと強く願う。


「……お願い」


 歌恋の発した言葉に応えるように、握り締めたマテリアルから光が溢れ――

 次の瞬間には、手の中に懐かしい感触。


 ダンジョンで無数のゴブリンを葬った頼もしい相棒。

 あの日を共に戦い抜いた、小鬼の短弓と呼ばれる武器だ。


 漆黒の騎士のときとは違う。

 ――今度こそ海斗さんと一緒に。


 強い意思を胸に秘め。

 歌恋は小鬼の短弓に矢を番えた。

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