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オラオラ

「おるぁぁぁああああ!!」


 赤い特殊強化スーツを身に着けた男が、地面を踏み切り宙を舞う。 

 踏みつけるように放った蹴りは、ゴブリンを踏みつぶし、緑色の体液を道路にぶちまけた。

 消えゆくゴブリンの末路を確認することなく、赤レン――海斗は周囲に視線を向ける。


「思ったよりも数が多いな……」


 駅前の広場。

 そこは休日ともなれば多くの人々が行き交う場所だ。


 しかし今は普段とは違った種類の喧騒に溢れている。

 そう溢れ出したモンスターによって、人々が襲われているのだ。


「マスター! 後ろっ!!」

「……どりゃぁああああ!」


 ティセの言葉に反応し、身体を捻る。

 振り向きざまに放った拳が、背後から迫っていたモンスターを一撃で葬り去った。


 悪い予感ほどよく当たる。

 その言葉が正しいことを示すように、海斗の予感は的中してしまった。

 どうやらダンジョンの出口は、あの場所だけではないらしい。


「シャイーーン……ナッコーーーー!!」


 眩い光と共に響く轟音。


「さあ、今の内に! 止まらず自衛官の指示に従ってください!!」


 鵜坂は自衛官と共に行動し、必死に人々の避難を進めている。

 しかしそれは遅々として進まず、前にはまだ多くの人影が残っていた。


 だがそれは鵜坂や自衛官が問題と言うわけではない。

 初動で問題が発生してしまったせいだ。


 化け物が地上に溢れるなど、一般的な感性を持つ人ほど受け入れがたい。

 無数のエンタメに溢れたこの街の特性も影響したのだろう。

 ――なにかの撮影だと勘違いし、人々が自衛官の避難誘導に従わなかったのだ。


 自業自得と言ってしまえばそれまでだが――

 それでも見捨てることができないところは、宮仕えのつらいところだろう。


『さぁ、もうすぐ始まります。本日のライブ冒頭はこのチャンネルにて生中継いたします! またABESHITVでも同時中継を……』


 大型サイネージに流れるアナウンサーの声。

 映し出される光景が、本来自身のいるべき場所を思い出させる。


 画面の中の日常と目の前の非日常。

 どちらが現実なのか理解しているはずなのに――

 その差異は恐ろしいほどの不快感を海斗に感じさせていた。


「アレをなんとかするべきなんだろうけど……うらぁ!!」


 迫るモンスターに拳を撃ち込み絶命させると、海斗はゆっくりとある一点へ視線を動かした。

 見つめる先には、アスファルトに穿たれた穴。

 そこからは止めどなくモンスターが溢れ出している。


 体毛と犬の頭を持つ人型生物、全身骨だけの戦士。

 実際には初めて見るが、ファンタジーでは定番の姿。

 いわゆるコボルトにスケルトンと呼ばれるモンスターだ。


 ゴブリンを主力とした混成部隊。

 個々の能力はさしたる脅威とは言えないが、その数は決して油断できるものではなかった。


 本来であれば素手ではなく、大剣を使って戦うべきだろう。

 しかしまだ避難が終わっていない状況では、範囲の広い武器を使うことはできない。

 だがそれは決して自衛隊が無能であるということではない。


 すでに駅の東口へと続くシャッターはすべて閉鎖されている。

 それはこれ以上、この場所に人を近付けないための処置だ。


 初動、避難される側の問題で、多少のトラブルはあった。

 しかし彼らは常に最善の行動を取ろうと動き続けている。

 そのことからも、この国の自衛隊が非常に優秀であること海斗には理解できた。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」


 海斗は無数の敵影に向かって、連続して拳を繰り出す。

 飛び散る白骨。千切れ飛ぶ肉片。


 邪魔な――いや守るべき人々が避難を終えるまで、海斗はただひたすらに戦い続けるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「それでも見捨てることができないところは、宮仕えのつらいところだろう。」 そうなん、見切りをつけなくて、より多くの犠牲を生み出すことになるよね。
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