レベルアップ?①
決意を台無しにするような機械的な声音。
一体何事だ? 海斗は戸惑い、困惑する。
「……? マスター、どうかしたの?」
動揺が表に出てしまったのだろう。ティセが不思議そうに声をかけてきた。
今確かに『レベルアップ』と聞こえた気がする。
しかし、そんなことが現実に起こるはずはない。そう考えた海斗はティセの問いに答えることが出来ず黙り込む。
「…………」
心配そうにこちらを見つめてくる二つの瞳。普通に考えれば幻聴。恐らく話す意味もないこと。
だが、本当にそうだろうか。目の前の少女、そしてゴブリンだったモノに視線を向けながら考える。
普通に考えれば有り得ないことは既に起こっている。
ならば今聞こえた声も幻聴などではないのかもしれない。
会社で話したのであればバカにされてしまうような内容。しかしティセであれば真剣に聞いてくれると思う。
まだ出会って短い時間しか経っていないが、彼女が海斗をバカにする光景など想像できない。
先程の声がもし幻聴でないとしたら――いやむしろ幻聴だとするなら、ここでそうであると確定させるべきだ。
今後の行動を検討する際、問題があるなら事前に分かっている方が良いだろう。
「あー今から変な事を言うかもしれないんだけど……」
海斗は前置きをして、ティセの様子を窺いながら次の言葉を発する。
「今、気のせいかも知れないんだけど……レベルアップって声が聞こえた気がして」
自分の精神は正常なのだろうか。不安を感じながら彼女の返事を待つ。
するとティセは満面の笑みを浮かべ――
「やったねマスター! おめでと~」
本当に嬉しそうに返事を返してきた。
「えっと……ティセ、どう言う事だ?」
「……? レベルアップだよ! レベルアップ!」
「……ふむ?」
どうやら『レベルアップ』という声は幻聴ではなかったようだ。
彼女の喜びようを見るに、恐らくとても良いことなのだと思われる。
しかしそもそも『レベルアップ』がどういうものなのか、海斗は理解出来ていなかった。
詳細が分からない状態では、どう反応するのが正解なのか判断できない。
「あーその、レベルアップってなんなんだ?」
「……あっ、そっか! レベルアップってこの世界にはないんだっけ?」
何か知っていそうなティセに詳しい話を聞いてみる。するとポンと手を打ち、ティセは海斗が困惑していた理由を理解したようだ。
「えっとね……モンスターを倒すとマナが発生するのね。そいで倒した人がそのマナを一部取り込めるんだけど、取り込んだマナが一定に達すると存在の位階が上がって強くなるんだよ~」
一息でレベルに関する説明が語られる。
それぞれの単語が何を指しているのか、詳しいところは分からない。
だがゲームをプレイしていたお陰だろう。何となく言わんとしていることは理解出来た。
恐らくモンスターを倒すとレベルが上がる。レベルが上がると強くなるということなのだろう。
「なぁティセ。マナとか位階ってのは何なんだ?」
「えっと、マナってのはふわ~って漂ってて、モンスターの元になってるヤツだよ!」
疑問を解消しようと問いかけるが、返ってきたのは答えになっていない答え。
「そいで位階ってのは強さの指針みたいな感じかな?」
今までのティセの傾向からして、詳しく聞いてみたところで恐らくこちらの理解出来る答えは返って来ないだろう。
位階に関しては何となく分かる。ただマナに関しては、取りあえずそんな感じのモノなのだと理解しておくしかなさそうだ。
「……なるほどな、よく分かったよ。ありがとなティセ」
「えっへへ~、マスターのサポートはお任せだよ~!」
屈託のない笑顔で笑うティセ。
彼女の笑顔を見ていると、細かいことはどうでも良い気がしてくる。