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すまぬ

 慌てて飛び退いたお陰で、被弾は避けることができた。

 しかし目の前で発生している状況は、すでに取り返しがつかない。


 海斗の脳裏に一つの映像が浮かぶ。

 『大変お見苦しい映像……』

 それはテレビの生中継で問題が発生した際に表示されるお詫びの文章だ。


 鵜坂の発生させたソレは、人の目に触れる場所では放送することのできない悲惨なもの。

 それに彼女は年頃の女性。

 海斗には申し訳なさを感じながら、彼女の背をなで続けることしかできなかった。


「うぅ……まだ気持ち悪い……」


 ある程度の時間が経過し、彼女はゆっくりと顔を上げる。

 目の前に広がっていたモノはすでに跡形もなく消えていた。

 こんな時は、ダンジョンの謎機能がありがたい。


 逃げることが最優先の状況で、彼女を気遣う余裕などなかった。

 とはいえ、起こったことは海斗に責任がある。


「あーその、すまん……」


 そう考えた海斗はバツが悪そうに謝罪する。


「ちょっ、センパ……」


 彼女は顔を赤くし、海斗に文句を言おうとして――


「…………」


 ――そのまま再度俯いた。


 ちらりと見えた顔色は青。

 どうやらまだ気持ち悪いようだ。


 赤から青。暖色から寒色。

 コミカルな動きも相まって、笑わせにきているのではないかと勘ぐってしまう。


 全速力で駆け抜けたお陰で、ヤツらからかなり距離を取れたはずだ。

 海斗は確認するようにティセに視線を向ける。

 すると彼女は頷き、問題ないことを知らせてくれた。


 とはいえここでじっとして時間を無駄にするわけにもいかない。

 ヤツらが地上へとやって来る前に、可能な限り準備を整える必要があるのだから。


「鵜坂……悪いんだけど、のんびりしてる時間はない。もし動けそうにないなら、俺がもう一度……」

「……!? だ、大丈夫です! 自分で……うぅ、歩けますから……」


 彼女はふらふらと立ち上がると、差し出された手を拒む。

 まだ本調子ではなさそうだが、海斗に運ばれるのは避けたいようだ。


「さぁ、センパイ……い、行きましょう」


 そしてゆっくりとではあるが、鵜坂はダンジョンの入り口に向かって歩きだす。

 海斗としては急ぎたい気持ちもある。

 しかし無理矢理というのはよろしくないだろう。


 幸いなことに目的地――ダンジョンの出口まで、それほど距離もない。

 ならば無理に運んで彼女の体調を悪化させるより、自分で歩いて貰った方がいいだろう。


「か、階段が……やっとダンジョンから出られます……」


 視線の先には、ダンジョンの入り口へと続く階段。

 外から光が差し込んでいる。


 ダンジョンに侵入して起こった様々な出来事。

 そして激しい嘔吐によって、彼女の精神は限界が近いのだろう。

 涙目になりながら、しみじみと呟く様子から、鵜坂の気持ちが見て取れた。


 しかし思っていた以上に時間が経過していたようだ。

 ここに侵入した時は夜だったはず。

 外が明るいということは、少なくとも七~八時間はダンジョンに潜っていたようだ。


 そう考えれば鵜坂が少し眠そうにしているのも仕方のないことなのだろう。


 しかし海斗は全く眠気を感じていない。

 この辺りもレベルの差によるものなのだろうか。


 ダンジョンでは鵜坂も共に戦闘を行った。

 つまり経験値を得ているはず。

 しかし彼女がレベルアップした気配はない。


 もしかするとこちらにそのことを伝えていないだけかもしれない。

 だがレベルが上がれば身体能力も大きく向上する。

 つまり動きを見ただけで違いがでるはずだ。


 しかし彼女の身体能力に変化は見られない。


 なぜレベルアップしないのだろうか?

 海斗の脳裏に一つの仮設が浮かぶ。

 それはあの門が原因である可能性だ。


 このダンジョンへと再度侵入した時、海斗は違和感を感じていた。

 だがブヒートと戦ったボス部屋。

 あの場所に到達したことで、なんとなくではあるがその違いが理解できた。


 一階層、二階層共に同じ違和感。

 しかしボス部屋だけは以前のダンジョンに近しい気配を感じのだ。


 そこから導き出される答え。

 恐らくあの門を開くため、他の場所の魔素が薄くなっていた可能性だ。


 正確なところはわからない。

 だが当たらずとも遠からずといった感じだと思う。


 色々と考えてしまったが出口が目の前にある以上、さっさとこの場所から出るべきだ。

 海斗は一歩踏み出し、その場で立ち止まる。


「あれ? マスターどうしたの?」


 不思議そうに問いかけてくるティセ。


「ティセは鵜坂と一緒に、先に階段を昇っててもらっていいか?」

「……えっと、センパイ?」


 ここに残って戦うとでも思っているのだろうか。

 鵜坂は少し不安そうに声を出した。

 しかし、残念ながらそんなつもりは毛頭ない。


「少しだけ悪あがきをしておこうと思ってな」


 ティセも海斗がなにをしようとしているのかは理解していない。

 しかし彼女は海斗の指示に従い、鵜坂の背を押し階段へと向かう。

 そこには確かな信頼、絆が存在していた。


 不思議そうな表情を浮かべながらも、背を押された鵜坂は階段を登りはじめる。

 海斗は彼女の姿が見えなくなるのを確認し、ゆっくりとダンジョンの入り口へと振り返る。

 大きく息を吸い込んだ海斗は、ゆっくりと漆黒の大剣を振りかぶった。

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