第87話》目的を果たせればいいんです!
「あれが、ボスね」
普段通りに戻ったリラさんが、大きなドラゴンを見て小さな声で言った。
「宝箱~」
いつもより、いやかなり未練がましく囁くママルさん。
「もう、あれはいいの! 私達の目的はドラゴンのたまごでしょ」
とリラさん。
「そうだけどさ……」
としょんぼりのママルさん。
実は、穴を塞ぎつつ進み、途中に宝箱があった。それは、目に見えるところにあったから、取りに行こうとするママルさんをダメだとリラさんが引き留めたのだ。彼女が取りに行けば、穴を塞ぐ人員が減る。
「はぁ……じゃ、こうしよう。ボス戦終了後、俺とママルさんだけ宝箱を取りに戻る。どう?」
「え? いいの?」
「うん。その代わり90分以内ね」
俺が言うと、ママルさんが嬉しそうにパーッと顔を輝かせる。
「よかったわね。では、ちゃちゃっと終わらせちゃいましょう」
「うん!」
リラさんの言葉に元気よくママルさんは返事を返した。
「行くわよ!」
このボス戦、ドラゴンはうたた寝中で本来は先制攻撃が出来る。だが、たまごを持って行く時は、先制攻撃を受けるのだ。
「オールシールド、オールマジックシールド」
俺達は、たまご目指して駆けだした。
「何これ?」
「たまごだらけね……」
リラさんが驚くと、ミチさんも驚いて言った。
どうやらこの中から好きなたまごを選んでいいらしい。
「マスター、10分程でゲームオーバーです」
「え!? あと、10分!?」
俺が叫ぶと、四人はドラゴンを見上げた。
「あと10分でボスを倒すのは難しいわね」
「そうね、たまごを持って脱出した方がいいかもね」
リラさんが言うと、ミチさんも頷いた。
「え~~! 宝箱は?」
「そうね。じゃ二人は宝箱を取りに向かって。私達はたまごを手に入れたら、脱出するわ」
クリアにはならないけど、たまごはゲットできる。
「うん!」
「たまごは、私達で選んじゃっていいの?」
モアレさんが聞くとママルさんが頷いた。なぜかクリアしない事に決定したんだけど!
「エット、行こう!」
ぐいっと、ママルさんに引っ張られる。
「え~~。本当にクリアしないの?」
「無理でしょう」
「目的が果たせるんだからいいと思うわ」
「うん。だから宝箱……」
「……あ、いってらっしゃい」
モアレさんに手を振られ、俺とママルさんは道に引き返す。まだ残っていたモンスターがのっそのっそと歩いていた。
仕方がない。宝箱を手に入れて戻りますか。
「ファイヤー、ファイヤー」
今度は、宝箱まで一直線のモンスターを倒し、蓋をせずに向かう。
「ぐふふふ」
嬉しそうに宝箱に辿り着いたママルさんは開けた。
「エット、ナイフだよ。はい。まだ時間あるよね?」
「まあ……そうだね」
「じゃ、行こう!」
宝箱は二つあった。もう一つへと向かう。
「ファイヤー! げ! 敵出て来た」
戻って来てから5分経った様で、穴からモンスターがのっそりと出て来た。
「きゃ」
さすがに足元の穴から出て来て、ママルさんが悲鳴を上げた。
「ファイヤー!」
「急ごう」
「うん」
「ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー」
目の前の敵だけ倒して行って、もう一つの宝箱に辿り着いた。
「えへへ。あ、またナイフだ」
そう言って、ママルさんは俺にナイフを渡してくれた。
「ねえ、もう宝箱ないのかな?」
「え? うーん。この通路にはないね。さて、脱出しようか」
「うん! エットありがとうね!」
「うん。まあ、仕方ないからね……」
彼女達にも苦手なものがあったのだし。ってママルさんにはないのか? ある意味最強だな。
「脱出魔法陣!」
俺とママルさんは、ダンジョンを脱出した。
ギルドに戻ると、三人はもういた。そして、驚いた事に持って帰って来たたまごの大きさに驚いた。
「小さいね!」
ママルさんも驚いたらしくそう言った。
片手にすっぽりの大きさ。にわとりのたまごよりちょっと大きいぐらい。
珍しいな。シンプルに白いし。
「ごめん、ママル。選んでいたらボス起きちゃって。手にしていたたまごを手に脱出しちゃった……」
とリラさん。
なるほどね、そういう事。
「いいよ! 凄く小さなドラゴンが生まれるって事だよね? かわいいよね!」
かわいいかもしれないが、それ本当にドラゴンなのか? って大きさだね。
とりあえず、育てるしかないけどね。