第70話》オンリーワンを唱えよう
「はぁ。やっぱり椅子があるっていいわね」
椅子に座り、だらんとしてリラさんが言う。
「エットは、座らないの?」
ママルさんが椅子に座ったまま、地図のテーブルに立つ俺に振り返って言った。
「魔法を覚えたら行くよ」
「はーい」
俺達は、一旦ギルド部屋に戻って来た。
目的は、イベントポイントの変換ではない。イベントポイントの最初の賞品が経験値の為、クリアした後にしようとなった。今、レベルを上げたくないからだ。
まあやるだけやろうって事。
で、ナビに詳しく聞くとどうやら、山の中の洞窟ダンジョンの敵が、あのクリスタルの敵らしい。
今、クリスタルは一つある。それと、作ればもう一つ。あと二つ必要だ。
クリスタルの欠片を集めつつ進めるには、この洞窟ダンジョンコースが一番手っ取り早い。
問題のミチさんのレベルをどうにか出来ないかって事だけど。そう思ってナビに聞くと、意外な事にあったんだ。それがギルドの魔法。
レベル5に覚える魔法で、『オンリーワン』という魔法だ。これは、唱えた後の最初に振られるサイコロの目が必ず『1』になるもの。戦闘を開始する前、つまり移動する前に使う事で、レベルを決めるサイコロの目を1に出来る。使用MPは3。
ダンジョンにしか使えないので、散策コースには使えない。
洞窟ダンジョンの敵は、サイコロの目×プレイヤーのレベルだから全員これを使えばいい。因みにレベル=HP。
リラさんが、ダンジョンポイントを提供してくれた。なので今、ギルドコインは20ある。魔法はすべて10必要みたいなので、オンリーワンも10使う。
――オンリーワンを覚えました。
――ギルドコインを10使用して、10になりました。
後は、これを使って目指すだけだ。
「でも本当に、アトリエに辿り着いてクリスタルダイスを手に入れられるのかしら? 辿り着かせない様にしているし」
ミチさんが言う。
「あら、私達が気づいたのだから上級プレイヤーはきっと、同じ事をしているんじゃないかしら? ただ、クリスタルの事を気づけるかどうかは別だけどね」
俺も一応椅子に座る。
「じゃ、行きましょうか」
俺が座ったとたん、ミチさんが言った。まあいいんだけどね……。
□ ◇ □ ◇ □
洞窟ダンジョンのセーフティエリアに俺達はいた。
「マップ」
かなり広い。そして、所々に宝箱もある。
「どう?」
「かなり広い。でも宝箱もあるよ」
「え! 宝箱!」
リラさんに聞かれ答えると、いつもと同じようにママルさんが、宝箱に反応した。
そういえば、イベントに参加した理由って、重量がある装備を手に入れる為だった。だったら宝箱は全部拾って行かないとなぁ。
1つ、2つ……15個!?
死ぬことはないと思うけど、広いからかなり時間かかるなぁ。どうするかな……。
「とりあえず、どんな感じかスタートしようか。宝箱が15もあるし、全部取って行けるかどうか……」
ここの敵は、攻撃しても全部1。しかも今回は、魔法を使えない。だからダブルボウは、俺が使う。
「いい? 必ずオンリーワンって唱えてよ。エリア範囲はレベルによって違うからミチ気を付けてね」
「えぇ。わかったわ。エリア範囲が見えないから怖いわね」
そして今回は、一区切りの範囲がレベルによって違う。たぶんミチさんは、俺達の半分の範囲しかないはず。だから俺達が1回しかサイコロを振らなくていい距離をミチさんは、2回振って進むって事。
レベルが高い人ほど牛歩だ。
「本当に嫌な作り方してるわ」
リラさんが、ため息交じりで言う。
ここの敵は、強いわけではない。ただレベルが上がれば上がるほど、倒すのも進むのにも時間がかかる。
散策コースを進むか、この洞窟ダンジョンを進むかは、プレイヤーしだいだろう。
「行くわよ。オンリーワン」
「「「オンリーワン」」」
俺達は、洞窟へ踏み出した。
――ダイス1で、レベル22の敵が出現しました。
サイコロの目が1でホッとする。ちゃんと魔法は効いたようだ。
それぞれ敵と戦闘を開始!