第21話》まったりタイム。話に花が咲く
「改めて宜しくね。俺、魔法が得意だから敵を倒すのは任せて」
「え? ありがとう。魔法って便利だよね」
頷いて言ったミチさんは、何故かジッと俺を見つめている。な、なんだろう?
「な、何かな?」
「あ、ごめん。私の癖なの。何か気になる事があるとジッと見ちゃうの」
「気になるって? エットが!?」
ドキ。もしかして格好良く見えるとか?
「うん。何か他の人と違うような気が。なんだろう?」
「あぁ、なんだそっちか。杖を持ってないからじゃない? 彼、杖無しで攻撃するんだ。凄いよね?」
「あ! 杖か! え? なくても攻撃って出来るの?」
「うん、まあ。俺、HPの初期値が10なんだ。つまり体力10。だから持てる重量が1しかなくて、ローブのみでスタートして、その為に武器無しでも魔法を使えるパッシブがあるんだ」
「そうなんだ。いいなぁ。もしかしてSランク?」
「よくわかったね」
驚いた。物知りそうなママルさんだって気付かなかったのに。
「ランク決める時に聞いたから……」
「え? 聞いたんだ。私、ゲーム始めて知ったのに」
「だって、ダイスにA~Eが書いてあるけどEだけ2面あったんだよ? だからえ~って言ったら、最大値だとE、最小値だとSがダイスに現れるって」
「あ、そっか。六面体だからEが一つ増えたんだ」
俺の時は、Sもあったから一面ずつだったんだ。
「え? 六面だったの? 私はA~Dで四面、三角のダイスだったよ」
「普通は、そうみたいね」
「あれ? Eがって! ミチってもしかしてEランクだったりする?」
「はぁ……。そうだけど、全然弱いよ。最大値なのは素早さだからね」
うんざりって感じでミチさんは言った。
きっと、期待されて他のプレイヤーに言われたのかもね。さっきもそんな感じだったし。
「何言ってるのさ! 素早さないと大変なんだから! いいなぁ」
力説した後、珍しくママルさんも小さくため息をついた。
「皆が思っている程、ガンガンレベルなんて上がらないって事よ。魔力や攻撃力が最大値だったら違ったのかもしれないけど」
「そうなの?」
ママルさんが聞くと、うんとミチさんが頷く。
「初期値の10%しかレベルが上がっても増えないの。最大値の素早さだって、レベルが上がっても100しか上がらない。だから敵が強くなってくると、倒せなくなるから少ない経験値でレベルが上がるとしても、倒すのが大変で……」
確かにそれなら攻撃系のパラメータが最大値だったら倒しやすいかもね。
「そっか。私、素早さが少なくてさ、レベル上がっても25しか増えなくて、敵に攻撃が当たらないの! しかも素早さが低いからかカウンターも食らうんだよね。攻撃力があってもダメみたい」
「そうなんだ」
……この会話には加われないな。素早さは、1,000上がりますなんて言えない!
なのに、二人が俺を見ている。
「え~と……」
「エットは、初期値の2倍上がるんだよ! 素早さはね、今750あるんだって! だから初期値は250! 500上がるなんて羨ましいわ~」
俺が答えないでいると、計算が得意なママルさんが解説した。
「え? 500も上がるの? じゃすぐに追い越されるわね」
そう言ってミチさんは、俺をジッとまた見つめている。何が気になっているんだろう。
「えっと……俺、レベル上がるのかなり遅いから」
「そう、驚いちゃうよ! 私4レベルになって、次が110で上がる時、エットもあと残り110でレベル3になるって言われてさ。Sランクは、経験値上げ鬼畜だね」
う……。杖壊れた時は、大丈夫って言っていたのに。
「レベル上がってもステータスが伸びないEランク、ステータスの伸びがよくても経験値が鬼畜のSランク。皆、EランクとSランクに夢見すぎよね。ランクじゃなくて、ステータスのバランスよね」
ミチさんがしみじみと言った。
その通りかもしれない。俺は、たまたま素早さもあったから攻撃を受けてないけど、素早さが低ければ、戦闘はもっと苦労していたかも。
「ないものねだりだね。私も素早さがあれば楽に戦闘出来そうなのになぁ。二人が羨ましい」
ランクじゃなくて、素早さがあって羨ましいだって。ママルさんらしいや。
『話に花を咲かせているようですが、スタートしないのでしょうか? トライアルではないので時間は関係ありませんが――』
「あ! そうだった」
「うん? どうしたの?」
俺が声を上げると、ママルさんが聞いた。
「いや、ダンジョン攻略……」
「「そうだったね」」
本当に俺達って、まったりだよなぁ。




