第二章 旅立って欲しい
ここからは少女改めて巫女視点となります。主人公だと感情の変化が乏しいので、はい。
「よくぞ参られました勇者様、どうか世界をお救い下さ…ぴぎゃあ!」
だって勇者が血塗れで現れるとは思わないじゃない…。薄れる意識の中でそう呟いた。
休息室でぱちりと目を開けて視線を動かすと居た!血塗れ勇者!…と言っても既に血は洗い流してきたようだ。
黒いロングコートに革手袋に適当にナイフとかで切ってそうな黒い髪。全身真っ黒。あれ?血は洗い流してきたって言ってもそんな直ぐに乾く?と言う疑問は置いといて、顔は…整っている、が、目が圧倒的に死んでいる。多分瞳の色は金色と言いたいところだけど、光沢もないせいで明るめの黄土色に見えなくもない。年齢は20代後半?背も高い…。
「此処は何処だ。何故喚ばれた。お前は誰だ。」
そ、そうだ、説明する前に倒れたんだった。こほんえほんと咳払いをしてにっこりと微笑んで見せる。
「此処はセリヴァン王国と言います。貴方はこの世界を滅ぼさんとする魔王に立ち向かう勇者として異世界より召喚されました。そして私は貴方を守護する聖剣の巫女…マリヤと申します。」
精一杯毅然とした態度を取っていたつもりだけど、凄いうろんな目付きで此方を見てくる…、な、何だろう、何考えてるか全然分からない。
「理解できない。魔王とは何だ、何故俺が立ち向かう。お前達が勝手に決めるな。」
真っ向から拒否の気配…!まぁ、確かにいきなり言われてもって感じよね、私分かる!私も子供の頃に突然巫女に選ばれたんだもの。でも…どうすれば納得して貰えるのかしら…ええっと…
「ま、魔王とは人を滅ぼす恐ろしい怪物なのです!それに対抗出来るのは貴方だけ。そう!天命なのです!」
「先程と殆ど説明が変わっていない。俺とこの世界には何の縁もない。今すぐ帰せ。別を当たれ。」
あっ…!思わず目が泳いで冷や汗が流れてくる。思わず口ごもって上目遣いに彼を見詰めて、ちょんちょんと己の人差し指同士を合わせる。
「えっと、ですね…、これは、片道と言うか…その、ええ、今は、今はの話です!魔王を倒せば分かるかも!」
「話にならん」
うう…ばっさり…。何でこの人さっきから無表情なの…?怒らないのが逆に怖い…。
「だが、帰れないなら此処での生活を考える必要があるな。」
そのくせ超速理解!そこは冷静で助かった!
「そ、そうですとも!だから聖剣を手に冒険の旅へ…!」
「先ずは街の偵察が必要だ。」
此方の勢い殺されて思わずベッドの上なのに転けそうになったけど、ごもっとも…!
「取り敢えず…私が案内するので先ずは聖剣受け取ってくれません?」
「分かった。」
神聖な行為の筈なのに何故事務的な会話になっているのか…、いやでも、一応話は進められそうね…。一先ず聖剣が置かれている聖壇へと案内する。
「此方が貴方様のみが扱える聖剣でございます。」
その鞘の隙間から淡い光が漏れる聖剣を掴んで一言。
「両手剣か、要らん。」
と聖壇に戻そうとするが、生きているかのように一瞬で彼の腰に勝手に携えられる。じとりと此方を見られる。
「何をした…。」
「私は何もしてません!!」
数回引き離そうと試みたが無駄と分かるとあっさり諦めて教会の外へ向かって歩き出したので慌てて追い掛ける。扉を開ければ入ってくるのは眩しい程の日光。
「中世ヨーロッパか何かか此処は。」
何だろうか、取り敢えず知ってる光景なのかな?
話が進まない!としか言えませんね、すみません。