one
青く澄んだ空に、真っ白な雲が1つ。
いつもより早く流れていくそれを眺めて、さてどうするかと目の前で頭を下げる少年を見据えた。
前髪を左で分けた艶のある黒髪、色素の少し薄いグレーの瞳。いわゆる和装、着流しを着た彼が懐に忍ばせた武器は刀ではなく銃だった。
何をしていたか?お察しの通り現実逃避だ。
この少年は、先程通りかかった際にチンピラに絡まれているところを彼氏に話しかけるな汚らわしいと束縛系彼女を演じて助け出してやっただけの極めて浅い関係の知人である。
彼はその件に何か感じるものがあったのか、それともチンピラを蹴倒した私の見かけによらない思い切った行動に感心したのか。何にせよ、少年が頭を下げてまで願っていることは、私とともに旅に出たいということだった。
「そうだなあ…きみ名前は?」
「馳。馳せるっていう字で、はせって読む」
「馳くんか。私はレイ。まず聞きたいんだけど、馳くんはどうして旅がしたいの?」
「あーーー、とな、」
目を泳がせて少し戸惑いを見せたのち、キョロキョロとせわしなく辺りを見渡した彼は、ゆっくりと口を開いた。
理由によれば連れ出すのもやぶさかではなかった私は、馳くんが未成年のふたり旅、しかも片方は勝手を知らぬとなればどれ程のリスクがあるかを知って、かつ何ができるかと問われて尚行きたいといえば旅に出るつもりだった。
そして彼が私に言った旅に出たい理由は、私の首を縦に振らせるものだった。