くーん VS ねぇねぇ
「おーし!おいでー!パール!!」
僕は上がり框に立つとすぐに叫んだ。
奥の部屋からカタカタカタカタとフローリングを鳴らして近寄ってくる獣、いや、犬。白と茶のロングコートチワワ。
膝を付いた僕の太ももにちょこんと前脚を乗せ、顔を舐めたいのか、首を一生懸命に伸ばしてハッハッハッと息をかけてくる。
尻尾も最高速メトロノームの倍速並みに右へ左へ。そのうち回るんじゃないか。
僕が少し屈むと、それ待ってたぞー!と言わんばかりに顔面をぐっちょぐちょにテカらす。Oh-少し臭いのする化粧水だね。
全力で抱きしめたいけど、そんな事したらこの子ぺしゃんこになるから、綿菓子を持つように抱きかかえるよ。コラ、耳はダメ!
奥のリビングに行きパールを床に置くと、またリビング中を走り回る走り回る。
たまに水を飲む。
また走り回る走り回る。
僕も追いかける追いかける。
一人と一匹、部屋をぐるぐるぐるぐる。
僕もお茶を飲む。
そしてまたぐるぐるぐるぐる。
ちょっと疲れたなあ。少し休もうか、パール。
「くーん」
その反応……どっちだ。
よし、こうなったら全身わしゃわしゃ攻撃だ。
おっと。一瞬でゴロンしちゃった。
じゃあ僕もおやすみ。
そうすると、僕の胸の上にトコトコやってきて、一度伏せするんだけど、すぐにまた顔をペロペロ。これずっとやられるとくすぐったくなるんだよな。
そのまま僕は目を閉じ、パールもやがて目をトロンとさせる。
息遣いに合わせて体を撫でてると、この子はすぐに寝ちゃうんだよ。
じゃあ僕も一休み。
「ねえ」
「はい」
「ここ、あたしん家」
「はい」
「パールばっかり構うんなら出てって。てか、出てって」
こうして一人の女性と別れたのが、今から数年前のクリスマスイブ。
メリー!