episode1 ③
「………」
(随分溜まったな〜)
「ねえ、奏兎」
「ん〜?」
「空いてるロッカーに私物入れるの止めてくれない?」
放課後、部室の空いてるロッカーを開けて満足気に入ってる物を見つめていると、愛華が不機嫌そうな表情で背後から注意してくる。
「なんで?」
「なんでって…普通だめでしょ」
「うち人数少ないんだから別によくない? つーか部長も2個使ってるし」
「ただでさえ、おかしな部員が集まっているのに更に変な噂が起きるじゃない」
「今更? 最初から可笑しかったよ」
俺は中等部の頃から成り行きで文芸部に入っているが、文芸部の部員は基本的におかしな人間しか集まってこない。
愛華も壱もなぜか部活まで一緒という。
そのせいか文芸部は変な噂が流れていて、中々部員が集まってくれないという。
まあ、一番の原因はあの人だって事だけど。
「というか、空きロッカーに入れてる物が気に入らないんだけど?」
愛華はなぜか苛つくように言ってくる。
「えっどこが?」
俺はびっくりする表情でロッカーから取り出し見せる。
「なんでっ男が女物の服をロッカーに入れてるのよ!」
「これは…年の為だよ」
「何の?」
「背の低い子が入ってきた時ようにあえて入れてるだけ」
「きもっ」
「うるさい。お前には一切似合わないから勝手に着るなよ」
「着ないわよ!」
自分で言うのもあれだけど俺は、なぜか小柄な背の低い女の子にゴスロリやロリーターの洋服を着せたいという野望がある。
壱に頼んでくれる衣装を部室の空きロッカーに入れて保管している。
家に隠して置いていた時、母親にバレて一度怒られた事があったので、壱の家かロッカーに保管している。
愛華にはいつもキモいなど変態など言われるが、壱と部長に比べたら至って普通だ。
「だいたいあんたらはー」
ふいに何かに気付いた愛華が小言途中で止めて、床に向かってアッタクしていった。
「…何やってるの?」
愛華はまるで猫のように転がった物を手で動かして遊んでいる。
「ち、違うんです、これは! 転がったから拾おうと」
とは言いながらも、手で動かして遊んでいる。
言動と動作が全くと言って合っていない。
「クスクス」
すると、いつの間にか部室の扉が開き入ってきたふわふわした癒しオーラの綺麗な女性が、愛華の言動にクスクスと笑っている。
「相変わらず猫ちゃんは、猫ちゃんね♪」
「こっことちゃん!?」
愛華はその女性に言動を見られた事がよほど嫌だったのか、大げさな反応をする。
「ちっ違うんです!」
「ふふっ隠さなくてもいいのよ。猫ちゃんだもんね、ボール好きだよね」
「だから、違うんです!」
スカイブルーの色のしたふわふわウェーブの女性は、最近、文芸部の副部長に就任した2年の片沙衣 小鳥〈かたさえ ことり〉先輩。
みんなからは「ことちゃん」と言われている。
なぜか苗字での先輩付けが嫌なのだとか。
というか愛華は俺の服収集について色々文句言ってくるけど、愛華の猫ぽいのもどうかと思うけど。
「あれ壱くんは?」
「ああ、告白受けています」
「あらあら」
壱が先ほどから居ないのは、いつもの事で女子から告白をされているからである。
壱の性格は問題ありだけど、顔は恐ろしい程にイケメンでモテるから告白は日常茶飯事で毎日のようにキャーキャー言われている。
「つーか、なんであんな変態がモテるのか納得できないんだけど?」
「そうかしら?壱くん、イケメンだもんね。かっこいいよね」
愛華の文句に打って変わってことちゃん先輩は、素直に褒めてる。
基本的に愛華は何でもバカにする癖があるのも事実だ。
「奏兎くんもかっこかわいい感じよね。でも、壱くんの方が目立ってるせいかあんまり人気でないのかしら?」
ことちゃん先輩は壱だけではなく俺にまでもが褒めに掛かってくる。
愛華のバカにする言動に比べたら、本当にことちゃん先輩は天使のような心の持ち主だ。
「いや、別に俺はモテるとかどうでもいいんで」
「あら、そうなの?」
「そりゃあそうですよ! 奏兎は奏兎なんだから。奏兎はね」
愛華は意味深な口調で俺の方をチラっと見る。
「………」
「あらあら〜そうなの?」
愛華のセリフにことちゃん先輩は何か察したかのように嬉しそうな表情で俺らを見る。
でもそれは、大きな誤解である。
「ことちゃん先輩……違いますよ。愛華は単なる幼なじみでそれ以上もそれ以下もないですから」
「えっなんで!」
普通はここで愛華も否定するのが普通なのに、愛華は絶対に肯定しようとする。
愛華は普段は俺の事を絶対に好きではないような態度を取っている癖に、俺に行為を持つような女子が現れた途端に態度を変えて、「奏兎はあたしのもので、将来は一緒になるって決まってんだからね」とか昔からずっと言い続けている。
俺としては、愛華のものでも将来一緒になるつもりもないと言っているのに、勝手に決めるなと言いたいものだ。
「やあ奏兎くん、大変だよ」
そして、ふとした時にうるさい奴がやってきた。
「何?」
(うわあ、なんか鼻息荒いなあ)
「さっき告白うけてたんだけど」
「うん、知ってる」
「で、付き添いの女の子がめっちゃタイプだった」
「へー」
俺は適当に相槌を打って流す。
「うわっ出たよー」
愛華の呆れた呟きが聴こえてくるが、さすがにそこだけは賛同できる。
「それで?」
「ポニーテールで少し気が強そうだった。あれ絶対ドSで妹キャラぽかった。ミニスカはいたら似合いそう〜」
「ああ、そう」
「罵倒してくんないかな〜?」
「きもっ」
愛華が言いたい気持ちは分かるけど、そこまではっきりと言わなくてもいいと思うけど。
「相変わらず、壱くんは個性的な趣味ね」
ことちゃん先輩は嫌がる事なく善良な心で褒めてる。
「さすが、ことちゃん! 愛華と比べたら天使のような心をお持ちです事」
「ふふっ褒めても何も出ませんよ♪」
ことちゃん先輩は基本的に穏やか柔らかくて天使のような人だけど、あの人に対しては小悪魔や悪夢のような態度になる。
「そういや、先輩達はもう来ないんですかね」
「どうかしらね」
文芸部は体育系みたいに大会で引退というのはなく、卒業したら引退という形を取っている。
その分、冬休み前に任期を2年生に渡す形となってる。
「忙しいのよね、きっと。もう少ししたら遊びに来てくれるんじゃない?」
「そうですよね!」
「ところで部長はまだなんですか?」
何気なく壱がことちゃん先輩に問うと、ことちゃん先輩の持っているティーポットを静かに台に置いた。
「………」
「ええ、お父さんのお手伝いで3日程お休みなんですって」
「へー」
ことちゃん先輩の声はいつもの綺麗な声がうっすら低くなる。
「一層のこと、このまま来なくいいのに」
ことちゃん先輩が放ったセリフに、空気が沈黙となった。
ことちゃん先輩は部長に対しては冷徹で容赦ない悪魔のような人でもある。