episode8 ②
夢を見た。
懐かしい夢を見た。
それは、私にとって大切な思い出の1つ。
それは、私がまだ小学校低学年の頃の事だった。
その日、私は校庭の裏庭で迷い猫を見つけた。
『猫? かわいい』
(でも…)
「迷い猫かな?」
見た感じだとまだ毛質とか綺麗だった。
『もしかしたら、脱走した猫かな』
(! あ)
ふとある事に気付いた。
『首輪』
その猫には首輪が付いていた。
私は確認の為にその猫に付いている首輪を触ろうとしたら、その猫は私の手に近づき顔を擦りつけてきた。
『っ』
(かっかわいい!)
あまりにもかわいさに悶絶になりかけた。
『やっぱり、脱走した猫かも』
猫の首には首輪が付いていて、その首輪には電話番号が書かれてた。
『でも、どうしよう…』
保護したのはいいけど、どうしたらいいのかわからず困っていた。
『担任の先生に伝えたらいいのかな』
『ねえ、どうしたの?』
『えっ』
それは、私にとって運命的なものだったと私は思う。
困っていた私に声を掛けたのは1人の女の子だった。
『猫が』
『猫? あ、かわいい。迷い猫かな』
この時、私はその女の子に対して少しだけ戸惑いを感じていた。
その理由は私はクラスではほとんどクラスメイトと話す人がいないから、親しげに話しかけてくれている女の子に戸惑いしかなかったからだ。
『じゃあ、脱走しちゃった猫かもね。それで、ここに迷い込んじゃったのね』
『そうだね…』
『うーん、どうしたらいいのかな。担任の先生?』
女の子は誰に伝えたら良いのか頭を傾げて悩んでいた。
『誰に言ったらいいのかな?やっぱり担任の先生かな』
『えっと、そうだね』
普段、全くと言ってクラスの子と会話をしないせいかどう受け答えしたらいいのかわからない。
(どうしよう…)
『あら、こんな所でどうしたの?』
『あっ』
私と女の子の前に現れたのは、保健の先生だった。
『あ、良い所に!』
『えっ何?』
ちょうど通り掛かった保健の先生に女の子は事情を話したら、保健の先生が迷い猫を引き受けてくれる事となった。
『ありがとう、先生。助かったよ~』
『ありがとうございます』
『いいえ、そろそろ帰りなさいね』
『はーい』
迷い猫を保健の先生に渡し、その日はその女の子ともそのまま別れたのだった。
その頃の私は今ほどではないが、暗くて無口で友達もいなくてクラスでも誰とも話したりしなかった。
ただ、昔から見た目だけはこんな感じなので、クラスメイトからはお人形を愛でるようなそんな扱いをされていた。
ただ、嫌がらせやいじめられているとうものは全くなく、むしろその逆だった。
だから、あんな親しげに話しかけられても上手く答えられなくて戸惑うしかなかった。
そう、最初はすごく困っていたんだ。
それは、数日後の事だった。
昼休みいつも通り誰とも遊ぶ事も話す事もなく、廊下でぼーっと歩きながら教室へと向かっていたら、誰かが私に声を掛けてきた。
『あ! 見つけた』
『えっ』
『あなた、やっぱり同じ学年なんだね』
『えっうん』
『と思たよー』
あまりにも突然の登場だったので、びっくりしすぎて上手く反応できなかった。
『あ、あの、何か?』
『うん? あ、そうそうあの猫の事を言いたくて探してたんだ』
『そうなんだ…』
女の子はいつだって明るくて気さくで、暗くて内気な私と比べて正反対だった。
『やっぱりあの猫脱走しちゃったんだって、探してたんだって。昨日、飼い主さん所に返したって保健の先生言ってたよ』
『そっかあ、よかった』
『うん、よかったね。すぐお家に帰れて』
『うん』
その後、なぜかその子と保健室へ向かい保健の先生に会いにいった。
『飼い主さん、喜んでいたよ。お礼したいって言ってたよ』
『そうなんだ、よかった』
『うん、よかった。でも、可愛かったな、あの猫』
猫を触ったのはあの時が初めてだったけど、すごく可愛くてふわふわしてて気持ちよかった。
ペットショップや町中の野良猫は見た事はあったけど、実際に触ったのは今回が初めてだった。
うちはお父さんが猫アレルギーだから飼えなさそうだけど。
『猫、好きなの?』
『えっ?』
私の呟きに反応した女の子はぐいぐいと聞いてきた。
『や、かわいいなって思って』
『だよねー! 猫ってかわいいよね!よかったら、家来る?私の家猫飼ってるんだ。めっちゃかわいいよ』
『えっえっ』
その子はいつだって誰に誰に対してもグイグイ来ていて、明るくて気さくで優しくて、それは私に対しても変わらなかった。
それがあの子の魅力だった。
『来ない? かわいいよ?』
『いや、でも』
その時の私は今ほどではないけど、辛い事や悲しい事があって心にちょっとした物を抱えていて、人と関わりたいとか友達や仲良くしたいとか子供らしかぬ感情がって、その為私はいつも1人でいても全然よかった。
仲良くするから辛い気持ちになる。
なとと幼ないながらもちょっとした人間不信とうものがあった。
だから、最初気さくに話しかけてくれるこの子に対してもどこか戸惑いというものがあった。
だけど。
『かわいいよ!』
『えっあ、う、うん』
あまりにもぐいぐいとくるものだから、思わず承諾してしまったのである。
『ねえ、そういえば名前なんて言うの?』
『えっ』
『私はね―――』
それがその子と関わったきっかけだった。
今思えば、ちょっと不思議な出会いだったと思う。
「………」
目が覚めると、現実に戻された感覚があった。
「ああ、夢なんだ」
懐かしい夢だった。
すごくすごく懐かしい夢だった。
私の大切な大切な思い出。
それは今でも変わらない。
だけど、現実は夢の思い出のように優しくなくて辛い事ばかりだった。
今思えば、あの子と出会ってからずっと幸せだったんだ。
ずっとこんな日々が続けばいいなって思っていた。
現実はいつだって皮肉で簡単に奪われる。
「ねえ、どしたらよかったのかな? どうすればよかったのかな?歌菜ちゃん…」