episode8 ①
「やっぱり無理なんじゃないの?」
「そうやな、奏兎くん。これ以上は」
確かにしつこいと思われる気がするけど、でも。
(遠乃さんは少しでも反応してくれたから)
「えっ奏兎?」
「!?」
「遠乃さん」
「あ…」
別に押し付けたい訳じゃない。
ただ、少しでも俺に心を向けてくれるなら。
「食べてみて、本当においしいから」
そう言って、タッパの中のおかずを1つを掴み、遠乃さんの口へと差し出した。
「……」
「あーん」
「…いやいや、奏兎くん。それは無理やろ」
「さすがにそれは強引だけど、この子にはちょっとなあ」
すみれさんも壱でさえまでも俺の行動に否定するけど。
(でも、少しでもこの子の心に俺が)
「………」
「あ」
「えっ」
「あ、おいしい」
「遠乃さん」
きっと心のどこかで食べてくれないんじゃないかって思ってたんだ。
でも、食べてくれた。
それだけで十分だ。
「嘘」
「音唖ちゃんが」
すみれさんと愛華は驚愕した表情で遠乃さんを見ていた。
それもそうだろう。
一度たりともご飯に誘っても断った事しかなかったから。
「遠乃さん、はい、食べてね」
俺はそのままタッパの蓋を閉めて、遠乃さんに渡した。
「‥‥ありがとうございます」
一応受け取ってお礼を言ってくれたけど、表情と声はちっとも喜んでいるようには見えないが、でも受け取ってくれたから、もうそれでいいや。
(よかった)
「奏兎くん‥」
☪︎·̩͙♩。*✡☪︎·̩͙♩。*✡ nea ☪︎·̩͙♩。*✡☪︎·̩♩。*✡
桐稿先輩は不思議な人だ。
なんで先輩は私なんかに気を遣ってくれるのだろう。
私には何も持ってないのに。
そもそも私は妖魔協会の人からすれば、私は悪い事をした人間で、腫れ物や汚れ物を触るような扱いをされているのに。
愛華先輩は私の事情を知らないからあれだけど、すみれさんの私への接し方に真似して同じように戸惑いのある接し方をしてくる。
詞音さんも愛華先輩同様に戸惑いのある接し方だ。
みんな戸惑いのある接し方でいいのに、なのに桐稿先輩はどうして距離の近い戸惑いのない優しい接し方なのだろう?
「あ、おいしい」
もらったタッパを開けてお箸で1つおかずを口に入れた。
本当に料理が上手なんだ。