episode7 ③
「はあ、とんだ昼休みだよ」
部長を科学室に残して遠乃さんと教室を出た。
昼休みも後数分で終わる感じだ。
中等部の別れ道まで送ると遠乃さんは一礼をする。
「ごめんね、変な事に巻き込んで」
「いえ、楽しかったですよ」
「そっか」
「楽しかった」って言ってくれてるけど、表情がそう見受けれない。
おそらく言葉だけで言っているのだろう。
「ねえ、遠乃さん」
「はい」
「文芸部って興味ないよね?」
おそらくないと言えるけど、なんとなく興味本位で聞いてみた。
結果は分かっているのだけど。
「ないです…」
「そうだよね…」
遠乃さんはまた一礼をして、今度こそ中等部の中へと入っていった。
「はあ、困ったな」
昼休み終了のチャイムが鳴った所で教室に入った。
と、壱はまだ俺の教室の方にいて、戻る所だった。
「奏兎! どこ行ってたんだよ? おっせーんだけど」
「悪い、部長に捕まって、実験台にされてた」
「…うわー」
部長の名を出した途端、壱はご愁傷さまみたいな表情で俺を哀れんでいた。
「ご苦労さんだこと」
「はは」
部長は頭脳と容姿だけはいいけど、行動はもう破天荒の破天荒だが。
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放課後、いつものように文芸部の部室に向かい中に入る。
本棚から一冊の本を取っていつもの場所に腰を掛ける。
「はあ、どうすればいいんだろう」
遠乃さんの事もう少し知りたいのに、上手く歩み寄れない自分がいる。
まあ、遠乃さん自身が歩み寄ろうとしないのが一番の問題だけど。
「もう、奏兎! また先に行ったでしょ」
と、愛華がむくれながら部室に入ってきた。
「いや、別に向かう場所同じなんだし、一緒に行く事ないだろ」
「それでも、あたしは一緒に行きたいの! 壱となら待ってるでしょ」
「まあ、時と場合によるけど」
愛華はなぜかいつも俺と一緒に居たがる。
それは小学校の頃からそうで、勝手に行くとこうやって拗ねる癖がある。
「そんなに1人が嫌なら壱を待ってればよかったじゃん」
「あいつを待ったってしょうがないの!」
「意味がわからんのだが…」
「むうう」
拗ねる愛華を放っておいて、もう一度本に目を向けた。
「ねえ、なんでそれ読んでるの? 普段そういう倫理的な本なんて読まないのに」
「んー別に」
俺が読んでいたのは、人と仲良くなる系の論理本である。
こういうので参考できるとは思っていないけど、でも何か方法とか書いてあったら参考にしたい程度だ。
こんなに人と仲良くするのが難しいとは思わなかった。
普通に声掛けたら仲良くなれるものだと思ってたけど、愛華の時も壱の時もそうだったから。
まあ、壱の場合は少し特殊だったけど。
「やあ、諸君!ご機嫌! 久しいな、元気してるか?」
「………」
「部長」
「はあ」
しばらくして、他の人達が部室に集まってきて、最後に現れたの部長だった。
なぜか、偉そうな言い方だった。
「………」
ことちゃん先輩を見ると、ニコニコ笑顔なのに怒っていそうな表情をしていた。
(あれは、絶対に怒ってるな)
「あらあらまあまあ、突然偉そうにやってきてなんですの?」
「何を怒ってる?私はまだ何もしてないぞ!」
「という事はまた何かしようとしているんですね?怒りますわよ?何かしようとしたら」
「いや、既に終わった後ですよ。俺、実験台にされました」
「………」
俺の言葉にぷちんとなったのかことちゃん先輩の雷が降り注いだ。
「実験台を探すなって言いましたわよね? 忘れたのですか?」
「いだいいだい…痛いって!」
ことちゃん先輩はそのまま、部長の腕を強く握り始めた。
「失礼言うな!実験台受けてくれた報酬として入部届を渡しておる!」
「実験台にされて、誰が入るんですか?」
すごくごもっともな意見だ。
「確かに」
「科学部と勘違いされそうだよな」
「というか桐峻くん、あの子は来ないのか?」
もう復活したのか、同じく実験台に巻き込まれた遠乃さんの事を聞いてきた。
「来ませんよ」
「なぜ!?」
「なぜって来る訳ないですよ」
「そうなのか…」
遠乃さんは人と歩む気もないから、部活に入る気もないのだろう。