episode7 ①
「さあ、行こう」
「えっえっ」
「部長〜何やってんですか」
俺は我が文芸部の部長である雪之丞 慶時 〈ゆきのじょう けいじ〉先輩から引き離して、遠乃さんの手を掴んだ。
「えっ」
「おや、桐峻くんではないか。どうした?」
寝言は布団の中で言えってぐらいに、とぼけた発言をしやがった。
「何って実験台になってくれる子を探していてね」
「で、遠乃さんを狙ったんですか?」
「人聞き悪い言い方しないでくれるかな。たまたま、中庭で実験台なってくれる人探して来たら、ちょうど可愛らしいお嬢さんがいたからね」
「ナンパの一種ですか。あんたそういうの興味あったんですか?」
この部長に彼女ほしいとかそういう理論の概念があったとは予想外だけど。
「あっはっは。何を言っとるがね」
笑いながら否定されたよ。
「君は面白い事を言うね」
(あんたに言われたくねえよ)
「そうか、君も実験台になりたいのだね!」
「違います」
「そうかそうか」
部長は聞く耳を持つ事なく、淡々と進めていく。
「では、いこう!」
「聞けよ!」
「えっちょっ!」
と、部長は俺の話しをスルーして遠乃さんの腕を掴み歩き始めた。
で、俺も遠乃さんの手を握っていたので、一緒に連れて行かれる事になった。
連れて行かれたのはいつもの科学室だ。
部長はこの学園の問題児で教師からも頭を抱えられる程の奇怪な行動が多く、その理由が実験や発明などの事を学園中どこでもやっているせいで、1人でやっている分だけならまだマシだけど、今みたいに実験台になってくれる人を探して声を掛けて迷惑をこうむっているのだと。
俺もしょっちゅう声を掛けられて迷惑しているけど、この人は人の話を全く聞かないから、最近は諦めかけている。
問題児だけど理科の教師からはなぜか認めていて、この科学室を自由に使わせて貰っているらしい。
まあ、あの人は頭脳だけはかなり良いから。
そういう部長は準備室にそそくさと入っていった。
「あ、あの」
「ん?」
と、遠乃さんはか細い声を俺に向けた。
「手、そろそろ離して貰えませんか?」
「えっあ!」
遠乃さんの言葉に手を見やると、手を掴んだままだった。
「ご、ごめん! 気が付かなくて」
「い、いえ…」
(かわいい…)
少し顔を赤らめている遠乃さんもやっぱりかわいいと思ってしまった。
「………」
(小さいな)
遠乃さんは背が低いから手も小さいのか。