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天文学者

「…………」

 再びリルハは固まった。そこにいたのは、心の準備をしてから会いたい人ランキング堂々2位(そもそも2位までしかいない)の、天文学者のニールという青年だった。


「具合が悪いの?大丈夫?」

 ニールは心配そうにリルハを覗き込んでいる。

 リルハの頭の中は大パニックだ。

「ななななんでニールさんがここにいるの!?

 ニールさんはゲームが進んでからじゃないと登場しない人物では!?でも元々ここに住んでるわけだし、偶然会っちゃうこともあるってこと?やっぱりここがゲームじゃなくて現実だから!!??」

 文字化け寸前の思考回路の中で固まりっぱなしだったリルハは、残り少ない気力を総動員して笑顔を作って返事をした。


「大丈夫です。気にかけて頂いてありがとうございます。昨日引っ越してきたばかりで、今日は街の皆さんに引っ越しの挨拶をと思ったのですが、緊張してしまって、少し休んでおりました。」

 田舎ながらも町長の娘として培った社交性を全力で発揮して、何とか怪しくないお嬢さんに見えそうな答えを返したリルハに、ニールはほっとしたように微笑んだ。


「そうなのですね。うつ向いて座り込んでいらしたので、具合が悪いのではと心配になりまして。驚かせてしまい失礼しました。

 私はニール。この街で天文学の研究をしています。街の天気予報や災害予測なんかもしているので、知りたいことがあったらいつでもお立ち寄りください。」


 ニールさんは柔らかな笑みを浮かべて、穏やかな口調で自己紹介をしてくれた。


「天気予報もされるんですね!私は牧場経営をするためにこの土地に来たので、天気のことが分かると心強いです。

 あ、申し遅れました!私、リルハと申します。

 ニールさん、これからよろしくお願いします。」

 ニールさんの優しい雰囲気に励まされて、今度はきちんと挨拶が出来たように思う。


 私の知るゲームの中のニールさんはもっと無口な印象だったけど、現実にいるニールさんはそんな印象はない。ただ、ゲームではしていなかった眼鏡をかけていて、前髪もゲームより短い気がする。白に近いきれいな銀髪が首の後ろでゆるく結わえられて、肩に垂れていた。

 金と赤のオッドアイは眼鏡をしているせいかあまり目立たない。

 リルハの知るニールさんとは、かなり雰囲気が違っているように思えた。


 ニールさんにこれ以上心配をかけるわけにはいかないので、笑顔で手を振って歩き出す。

 今度は大丈夫だったはず。

 ただ、心の中は何とも言えない複雑な気持ちでいっぱいになる。



 ニールさんは、夢の中のいつかの自分がゲームの中で結婚していた相手だった。

 ニールさんは主人公に選ばれなければ誰とも結婚しないので、他の登場人物への影響が少なかったし、銀髪にオッドアイの外見も、思慮深くて穏やかな性格も、本当は寂しがりやなところも全部含めて、幸せにしてあげたいと思ったのだ。

 ニールさんと結婚して、彼が嬉しそうに笑ってくれることが増えて幸せだった。

 でも結婚してしまうとニールさんは牧場に引っ越してくるので、天文学の研究をしなくなってしまう。

 私はそれがどうしても心に引っ掛かってしまって、ニールさんの夢を奪ってしまったような気持ちになって切なかった。

 ゲームの仕様なのだからどうしようもなかったけれど、やっぱりニールさんとも結婚するべきではなかったのかもと、ゲームをしていた自分は思っていたのだった。


 ゲームの中のニールさんはいつも独りだった。街の中もめったに出歩かなかったし、毎日淡々と星の観察をして過ごしていた。

 あまり話さなかったし笑わなかった彼が、段々と自分に心を許してくれるのが嬉しかった。


 でも、さっき会ったニールさんはゲームとは印象が違った。外見も違ったし、見ず知らずの自分のことを心配してわざわざ声をかけてくれた。

 話し方も滑らかで、会話が苦手な人には思えなかった。


 彼は私の知るニールさんとは違う人なのかもしれない。この世界がゲームではなく現実であるように、そこで暮らす人々もまた、各々の個性があるのだろう。

 彼が孤独でないのなら、研究をやめてまで私と結婚する必要なんてないだろう。

 本当に今回はうっかりプレゼントを渡したりしないで済んで良かったと、リルハは胸を撫で下ろした。

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