夕ごはん
備蓄されていた根菜類と採集したキノコとリーフでシチューとサラダを作り、街で買ってきたパンを添える。
いずれはパンも自家製にしたいし、シチューに使うミルクも自分の牧場のものを使えるようになりたいけれど、それはまだもう少し先の話だ。
まずは生活に慣れて、お金を貯めて牛と鶏を飼いたい。
その為にも地道に採集、アルバイトから始めなくては。
明日からの頑張りどころをおさらいしつつ、木のボウルとトレーに盛り付けてライヤの前に並べていく。
牧場での生活が軌道に乗って友達を招待出来るようになるまではしばらく一人の食卓だろうと覚悟していたリルハは、まさかこんなに早く誰かと食卓を囲めるなんて想像もしていなかったので、やはり嬉しく、心強く感じた。
「うわー!うまそうだなー!
俺も簡単な料理はするけど、一人だとワンプレートで済ませることが多いし、鍋使うような料理なかなかしないからなぁ。
すげぇ嬉しい。
な、早速食べていいか?」
本当に嬉しそうに頬を綻ばせて張り切ってスプーンを持つライヤにほっこりしつつ、料理を勧めると、元気いっぱいの「いっただきまーす!!」の声と共にライヤがシチューを口に運ぶ。
「あちちっ!うわー!やっぱうまいなー!!
リルハの飯は!」
幼い頃から母に料理を仕込まれて、10歳を過ぎる頃からは一人でもどんどん料理に挑戦していたリルハは、兄やライヤに試食を頼むことも多かった。二人とも育ち盛りで何でも美味しく沢山食べてくれたので、もっと喜んでもらいたいと、自然とリルハの腕も上がっていったのだ。
まさか故郷を離れたこの場所で、またライヤと一緒にご飯が食べられるなんて。
ほんの数時間前までは想像もしていなかった。
一人で一から頑張ろうと決意してこの土地までやってきたし、その気持ちは変わっていないけれど、新しい生活の始まりに緊張して気を張りすぎていた所もあったのだろうと、ライヤの顔を見て力が抜けた自分に気付いたリルハは思う。
ライヤが兄の頼みを聞いて様子を見に来てくれて良かった。
普段は過保護すぎる兄とライヤだけど、今回ばかりは感謝しなくては。
シチューを二回お代わりして、さすがにお腹いっぱいになったらしいライヤに紅茶を勧めながらリルハは尋ねた。
「ライヤは今街のどこに住んでるの?絵を教えたり郵便配達をしてるって言ってたよね?」
「ああ。一応メインの仕事は学校で絵を教えることだから、今は職員用の宿舎で暮らしてるよ。
と言ってもマリンタウンの学校の先生はみんな街の人間で、実家に住んでることが多いから、宿舎に住んでるのは俺くらいだな。
部屋が余ってるからって居室とは別にアトリエ代わりの小部屋も貸してもらってて、めちゃくちゃ助かってるんだ。郵便配達の仕事もしてるから、そっちで宿舎を借りることも出来たけど、職員宿舎で気ままに過ごさせてもらってる方が性に合ってるからな。
リルハも今日は街の人達に挨拶して回って来たんだろ?
初めてのことばっかりで最初は大変だろうけど、きっとすぐに慣れるよ。
まだ腰を落ち着けて短いけど、旅に出るのはしばらくいいかなと思う位にはこの街は住み心地が良いし、人も景色も魅力的な所だと思うよ。」
穏やかな笑顔でライヤは答える。
自分も、数ヶ月後にこんな表情でこの街を、この場所を語ることが出来るだろうか。
今日出会った人々の顔を思い出しながら、期待と不安で心が揺れ動くのをリルハは感じた。
紅茶を飲み終えると、また様子を見に来るし、街に来た時には声をかけてくれと言い残してライヤは帰っていった。
大丈夫だからと何度も言っているのに、あんまりしつこく戸締まりの心配をするから、やっぱりお兄ちゃんみたいだとリルハは思う。
心配してくれるのは有り難いけど、素直になれないのはライヤに甘えているからなのだろう。
自分ももっと大人になりたいなとため息をつきつつ、明日に備えて寝る仕度を整えるのだった。