邪神の加護
後悔先に立たず、まさにその通りだと実感した。
調子に乗った俺が悪かったのだ。
俺も普通に触ることが出来る、これ程嬉しかったことがあるだろうか?
当然、喜んで後先考えずに行動した。
異世界に来たのだ、しかもモンスターや騎士といった存在があり、魔法のようなものまである。きっと魔法だと思うのだが。
ならば、この世界で魔法を使いたい、戦ってモンスターを倒したい。などの欲求は仕方がない事だと思う。
まず、手短な所で武器を持つといった所だろう。俺の部下、信者どっちか分からないが、とにかく騎士のエミールがいるのだ。剣を触らしてもらおうと思うのは至極当然のことだ。
どうしてこうなってしまうんだ?
「どうかしましたか、主様?」
エミールは笑顔で答える。その手には禍々しい剣があり、それを愛おしそうに見つめている。そのまま、頬ずりしそうな勢いだ。
エミールの持つ剣は、代々家に伝わる宝剣らしい。脈々と受け継がれてきたその剣は、建国のおりエミールの祖先が多大な貢献をしたことにより授与された物だとか。
そんな宝剣をあのような剣にしてしまうなんて、俺は激しく後悔している。エミールの剣を台無しにしたことにより、落ち込んでいる俺の前にはいつの間にか列が出来ていた。皆、各々の武器を持って。
俺は彼らから見たら、祝福を与える神のようなものだろう。だから、武器にも祝福を与えられると信じている。その結果がこの列だ。各々が武器を持ち、一人一人が差し出してくる。
で、結果として禍々しい武器が出来たのは、十数本にとどまった。普通の武器は黒い霧を浴びると内側から弾け飛び粉々になってしまった。
その事から、この集落にある歴史のある武器や冒険者から奪ったそこそこ値の張りそうな武器などが選ばれ、黒い霧に染まっていった。
そして、完成した武器はどれも禍々しく、色合いも気持ち悪いし、時には生きているかのように脈打つ武器なども出来た。
正直、気持ち悪いの一言尽きる。
それを皆が欲し、ゴブリン達が集まり相談している。まぁ、見た目が既にゴブリンではないのでこの表現もあっているのやら。
俺は思う。こんな戦力いったい何に使うのだろうか、ゴブリン達は確かに強くなったように思う。見た目的な意味で。しかし、冒険者と戦うのには多すぎる。エミールの話では、少人数のパーティーを組んで活動いているらしい。それを、集落単位で袋叩きにするので虐めのようなものではないだろうか。
しかし、彼らとて生きているのだから自衛としてはしょうがないのかもしれない。
こんな、姿になっても俺はなんやかんやで人間の事を考えているんだなと思う。
彼らを見て怯える生贄に連れて来られた女性たち、彼女たちからすれば俺は魔王にでも見えるのだろうか。確実にそうだろう。
ああ、この異世界で討伐対象として生きていかなくてはいけないのかと思うと先が思いやられる。
はぁ
ため息をつきたくなる、もうついているが。
それを、エミールが見開いて見ていた。驚愕の表情を一瞬浮かべるとキリッとした表情に戻る。さっきまでの剣を眺めて惚けていた顔ではない。
「申し訳ありませんでした、主様。不甲斐ないところをお見せして申し訳ありません」
エミールが綺麗な形で頭を下げ、俺が何事か分かっていないうちに状況は動く。
エミールはそのまま、武器の所有を言い争っている元ゴブリン達に向き直り、大きく息を吸い込むと怒気を含むように叫んだ。
「お前たち!いつまでそうしている?我々はこのお方に忠義を尽くす身、主様の前でみっともない醜態をさらし、あまつさえ自身の欲の為に主様に退屈を与えられるとは、恥を知れ!」
その言葉に、元ゴブリン達は俺に向き、全員平伏した。
いや、そういったことではなくて。この勘違いをどう止めればいいのだろうか、俺は思考を回転させるが事態は待ってくれない。
元ゴブリン達は、今までの口論から打って変わり自身達の中で誰がどの武器を持つのが最も相応しいかといった議論にシフトチェンジしていた。
大きな大剣は、いつも先陣を斬る大柄な者に。
ダガーのような小さい小刀は、不意打ちの得意な者が。
髑髏の付いた杖は、巫女の職に就く者が。
それぞれに、適した武器がそれぞれの強者に渡っていく。全ての武器が行き渡ると同時にまた全員が平伏する。
「我々はこれより、主様の手となり、足となり全ての障害を打つ砕きましょう」
誰かが言うと別の者も誓いを立てる。
「俺たちは、主様のお陰でこのような素晴らしい力を手に入れた。ならばこの力必ずや、主様の役に立てて見せましょう」
「我ら弱小、そう言われ続け、幾重に努力を重ねてもその壁は高く。しかし、貴方様お陰で我らが道が開けた。この御恩は生涯を賭けて返す所存」
「手始めに、主様の脅威になりそうな全てを排除して参りましょう。皆、行きましょう!」
エミールの掛け声と共に、元ゴブリン達の咆哮がこだまする。
あれ?どうしてこうなったのだろうか?
俺はいつの間にか周りの空気に置いて行かれていた。
そんな俺を生贄に連れて来られた女性たちは、この世の終わりのような顔で見ている。
ここでため息をつきたいのだが、ついたが最後自体がもっと悪化しそうな予感から俺は平然を装ってこれ以上自体が悪化しない事を神に祈った。
あ、もし本当に俺が邪神であったなら、神の祈りとは誰に届くのだろうか?
神の祈りはどこにも届かないのかもしれない。
先月は引っ越しなどもあり、なかなか投稿する事が出来ませんでした。言い訳です、すみません。
物語としては、主人公側の戦力が整った所なのでそろそろ戦闘シーンなどを書いていけたらいいなと思っています。
読んでくださっている方、いつもありがとうございます。これからも温かい目で見守ってくれれば幸いです。