筋肉の宴
今回はマッチョなお話です
遠くで、今後の展開を動かす重大な事が起きているとはこの時の俺はつゆ知らず、今目の前の祭りをどうにかしようとする事に全力を投じていた。
黒い霧に覆われたゴブリン達は無事に、進化を遂げていた。
ゴブリンの巫女と同じように、全員の体は黒に浸食されていた。
肌の色以外に顕著な変化として挙げられるのが、圧倒的に伸びた身長と肉付きの良い肉体だ。
初めて見たゴブリン達は、身長が100㎝ぐらいで、皆やせ細った体格であった。暗くてしっかりと見たわけではないが、そうだったと記憶している。
そんなゴブリン達が、身長160~180㎝の以前と比べると長身に、そして雄は細マッチョからボディビルダーまで多種多様の筋肉がそろっていた。
もう誰がどう見ても、ゴブリンだとは思わないだろう。正直、ここでは今行われているのは自身の進化を喜び合う祭り、生まれ変わった肉体を見せ自慢しいるその姿はただのボディビルの大会だ。
俺は男の体を見て喜ぶといった特殊な性癖を持ち合わせてはいない。
今、進化を終えたゴブリン達が感謝を述べるために俺の前に来ては、進化後の肉体を見せびらかしていく。
正直、つらいのだ。男の裸を見続けるのは・・・・・。
しかし、これは俺が起こしてしまった事でもある。
俺の奇妙な能力でゴブリン達を全て進化させてしまったのだ。
エミールの時は事故だったとしても、その後は自分の意思で行った事だ。それなら、最後まで責任を持って対応しなければならない。
何度も言うようだが、このむさ苦しい儀式を俺は心の呟きを一言として漏らすことなく、無心で切り抜けなければいけない。
なぜなら、全員進化したという事は、俺のふとした呟きを皆が聞こえるという事だ。
今、この場でこの空気を壊すわけにはいかない。
信用とは小さな積み重ねと、爆弾を踏み抜かぬ慎重さだと俺は考えている。そして今、ただひたすらに耐える時。
そういった訳で俺は耐える、きっとその先には安定した未来が待っていると信じて。
安定した未来がどんなのか分からないが。
やっと一息終わったのだろう。ゴブリン達の肉体自慢も終わりを迎えた。
最後は、巫女やゴブリンの雌たちも感謝の意を表すために頭を下げに来ていた。皆、ナイスバディな体になっており、いい目の保養になった。
最後にようやく筋肉成分が無くなり、その余韻に浸りながら周りを見渡す。
それにしても、結構な数のゴブリン達なんだなぁ。
「そうですね。この量のゴブリンたちが今まで、見つかることなくこのように暮らしていたという事に私も驚きを禁じえません。近くには町や、都市といった人の拠点があるにも関わらず、今の今までそういった話は聞きませんでした。余程、隠れるのがうまいのか王国が馬鹿なのかのどちらかだと思いますが」
いつに間にか俺の横にいるエミールがそう答える。
エミールのは、ゴブリン達の進化が終わるまで、この周りの探索をお願いしていた。一足先に進化を終えていた巫女さんに案内を頼んで。
俺はこの場所から動けるような体ではないので、どうしても周りを知りたいと思った時は誰かに頼まなければならない。
一番信用の置けるのが、エミールだ。
俺の能力で、その性格を歪めてしまっているのは罪悪感を感じるが、性格が変わった事これが一番顕著に表れているのがエミールだ。
ならば、最も能力によって変わった彼女こそ、きっと俺を裏切ることは無いのだろうとそういった打算がある。
最低な男だと俺自身で思うよ、さっきまで信用だといっていたのに。
仕方ないで済ませてはいけないのだろう。
俺は今後この能力でいろいろと変えてしまうのかもしれない、ならば俺に付いてくれた者たちに俺は何かを返していかにといけない。
ちょっとした俺の決意だ。今のところ返せる物など一つもなく、だだ甘えの状態なのだが。
「この里では、何かを行う時、我々巫女が幾日もかけて占いありとあらゆる災厄を避けてきました。また、攻勢に出るときは何を犠牲にしても全てを奪うようにと戦士たちは心掛けていました。我々を見た者は決して、逃がさないと」
エミールの後ろからひょっこりと出て来た巫女さんが言っていた。
「ほう、では今日までそれが成功していたのか」
「ええ、そうです。恐らく今回が初めてでしょう」
「では、まずいなぁ」
「そうですね。しかし、邪神様のお陰でこちらの戦力は以前と比べものにならない程変わっていると思われます。今後の動き次第で、どうにかなるでしょう」
「ふむ。今後の動き次第か。で、話は変わるのだがこの集落にいる人間たちはどうするのだ?」
「あれはこの場所が見つからないようにさらって来たのと、ゴブリン族の進化の模索として使っていましたが、その必要も無くなりましたので、殺すのではないでしょうか?」
え、エミール以外に人間がいるの?
俺には途中の話はちんぷんかんぷんだったが、最後の言葉だけははっきりと分かった。