黒い進化
一匹のゴブリンが前に出た。そのゴブリンは、ローブを纏い、杖を突き、よたよたとこちらに歩いてきた。
他のゴブリン達と違い、肉付きが良いとは言えず、どちらかと言えば干からびている。干物のようなゴブリンであった。
そのゴブリンがよたよたと俺に向かって歩いて来ている。
まるでおばあちゃんみたいだ。
「そうですね。おそらくこのゴブリンが、族長や巫女などといったゴブリン達にトップの一人なのでしょう。それでどうしますか、主様。力をお与えになるのですか?」
どうなのだろうか?
力を与えるといった感覚が分からないし、もし、力を与えられるとして、その後どうなのだろうか?
人間を襲うのだろうか?
もと、人間の俺が人間を殺す。その一端を担う事が出来るのだろうか?
もはや、体は人ではなく、これで人里になんて現れた時には討伐対象だろうな。
今の俺は、どういった立場なのだろうか?
もし、人が滅ぶのであれば・・・・。
「よろしいのではないでしょうか、主様の好きなように振舞ったので」
心の声が漏れていたのだろう。エミールが、答える。
好きなように振るまえか、言ってくれる。
元人間だからって、この世界の人間と友好的な関係を築いていけるとは思わない。このような姿であればなおさらだ。
人や魔物なんて関係ない。俺が仲良くしたい奴と一緒にやっていければそれでいい。
あー、くそ!やってやるよ!さぁ、来い。どうなっても知んねーぞ。
もう、やけくそだった。
その決意表明に、エミールは深く頷く。
目の前のゴブリンは、俺のうごめく姿にうろたえていたが、こっちが落ち着いたタイミングで向こうも落ち着いたのだろう。ゴブリンはこちらを見上げ、祈るように座っている。
俺は、そのゴブリンに手を伸ばした。
ゴブリンに手が近づくにつれ、腕から黒い霧のような物が漂ってきた。
改めて見ると、気持ち悪い。
一瞬手を引っ込めてしまいそうになったが、そのまま伸ばす。ここで、止まるわけにはいかない。
「グギガガ、グゲ!」
ゴブリンから声が聞こえる。
腕から出た霧は、既にゴブリンを覆い、周りを漂う。まるで黒い繭のような見た目だ。
外から中の様子はうかがえないが、中からうめき声だけが聞こえる。
大丈夫なんだろうか?
「問題ないと思われます。現在、この中で魔物の進化が行われていると推測されます。この中から出て来た時には、新しい魔物へと進化を遂げているでしょう」
へー、そうなんだ。
「ただし、進化に対応出来なければその限りではありません。きっと肉体が限界を迎え、崩壊するでしょう」
マジ、かよ?
「ええ、恐らく。身をもって体験しましたから」
・・・・・・。
そんな、恐ろしい事をシレッとエミールは語る。
運が、悪ければエミールも死んでいたのかもしれないのだ。
この霧そんなにやばいの?何なのだろうかこの力は?
そんな事を考えている間に、ゴブリンの進化が着実に進んで行く。
エミールと会話をしているうちに、ゴブリンのうめき声は消え、黒い霧が依然と辺りを覆う。
他のゴブリン達はその様子を静かに見守っていた。
「来ます、お気を付け下さい」
突然、エミールが俺と霧の間に割って入った。
その瞬間に中から、霧が膨らみ飛散した。
中から現れたのは、人間の形をした何かであった。
何これ?
「ゴブリンでしょうか?見た目が凄く違いますね」
そこにいたのは、ゴブリンと呼ばれる緑の醜悪な顔の小人ではなかった。
肌は、黒くなり以前の緑色がどこに行ったのか。そんな事はどうでもいい。問題なのがその姿がまるで人間の女性のような姿をしていた。
もしかして、異世界ではゴブリンと人間は、元の世界の猿と人間のような関係なのだろうか?
人間は元をたどれば、ゴブリンやオーク等と一緒です。みたいな進化論でもあるのだろうか?
激しく謎だ。
「あなた、会話はできますか?」
エミールが彼女に聞いている。
偉いぞ、エミール。その調子で未知とのファーストコンタクトを成功させるのだ。
俺の祈りが通じたのか、彼女は口を動かし始めた。
「はい、私はこの里で巫女をしている者です。この度は、そちらの神様のお陰で我らが悲願が達成されました。この里の巫女として感謝申し上げます」
透き通るような、綺麗な声だ。顔も人間と変わらず、整った感じの美しい美人だ。
そんな彼女は、綺麗な姿勢でこちらに頭を下げる。
いや、そんな事は・・・・。
彼女のつつましい姿勢にこちらもさがってしまう。
なんというか、こっちも緊張してしまう、いい意味で。
そんな彼女は、俺の言葉を聞き、
「ああ、神の言葉が聞こえます。福音です、かの方の言葉が私の中で・・・・・・・・・。幸せです」
ああ、やばい系の奴をだったらしい。
エミールがそれに深く頷いていたのは見なかったことにしよう。
お久しぶりです。
また、少しずつ投稿していきます。