初めての会話と演説
エミールの世界は、黒一色に染まっていた。
人生の絶頂期だと信じていた、勇者パーティーへの参加、戦闘における功績、他の騎士たちからの賞賛。
その全てが、ゴブリンによって潰された。
エミールは、ゴブリンに物のように引きずられる中で全てを諦めた。
将来を、現在を、そして生きる事を。
あれの目の前に連れて行かれた時には既に、心は死んでいたのだと何も感じていたくなかった。
そんなエミールを闇が包み込む。
暗く深く、その闇は優しくエミールの心に、体に入り込んでいく。
その闇はイメージとは裏腹に、温かく安心感があり、甘く心を溶かしていく。
体を作り替え、心を染め、エミールは生まれ変わってた。
俺は混乱している。このままでは、間違えて味方を攻撃してしまいそうだ。
冗談はさて置き、先ほどまで死体とそう変わらない女騎士が闇堕ちして目の前のに立っている。
まるで、どっかのエロ同人誌のようだ。
「エロドウジンシですか?それはどういった物なのでしょうか、主様?何とか誌とかついているので何かの魔導書のような物なのですしょうか」
待って、待って何でもないから!ほんと何でもないから!
「そうですか。何かありましたら、是非私にご相談下さい。主様の力になりますので」
あ、はい。
と喋れもしない、俺とこの女騎士は会話が成り立っている。
この俺の見た目も、腕から出た闇も気になるのだが、新たな問題としてこの悪堕ち女騎士をどうすればいいのか。
問題を解決する前に、次々と問題が飛び金で来る。処理できない大量の仕事を現在進行形で積み上げているサラリーマンのようだ。
きっとどこかで潰れる。前世では、それ程よくできた人間では無かったはずだ。出来る男なら、今こんなに混乱してしていない。
まずは、一つずつ解決しよう。何はともあれ女騎士と会話を行う事は可能になったのだ。まずは、会話からこの世界の情報を得よう。
ごほん。君は俺の事を主様と読んでいるが、俺は君の主なのだろうか?
「はい、私は主様に使える下僕でございます。何でも私におっしゃって下さい」
よし、これで二つの問題が解決した。
俺は、相変わらず声を出す事が出来ていないが、心の呟きのようなのもが相手に伝わっているらしい。これで、会話を行う事が出来る。
次に、女騎士は悪堕ちしたこれで間違いないだろう。
本当に申し訳ない事をしたと思っている。一人の人生を捻じ曲げてしまったのだから。
だけど、それでも俺はこれを好機と捉え前に進まなくてはいけない。この世界で生きる為に。
まず、周りのゴブリン達をどうにかしよう。君はゴブリン達と会話はできるかい?あとできれば君の名前と教えてくれるとありがたい。
「私の名は、エミール・ギルウス。エミールとお呼びください。そして、ゴブリンとの会話ですが。ゴブリン達は独自の言語で会話を行っており、人族の私では会話を行うことは出来ません」
お、おう。ありがとう。
彼女の名前を聞けたのはいいが、エミールが近い。
全身を傍に寄せ、下から見上げるように見つめてくる。
彼女の身長が高いのと俺の全長が短い事も関係して、彼女は前かがみで俺を見上げる。
ボディバランスが非常に良いせいか、その態勢だと出るとこ強調されめちゃくちゃエロい。そして、俺の質問に一喜一憂しながら答える姿が非常に可愛く映る。
そこは、置いておいてゴブリン達だ。
女騎士が悪堕ちしてから、ゴブリン達は静かにその成り行きを見守っている。
無数のゴブリン達の前で、公開処刑場態の俺ではあるがエミールの事に重視していた為、俺の頭の中からもゴブリン達はフェードアウトしていた。
改めて、確認しても不気味な光景だ。小心者の俺としては早く友好的な関係を築き、安心したい。
「私から提案なのですが、ゴブリン達を私のように眷属にしてしまうのはどうでしょう?」
え、えーと、うん?どうやって?
会話に遅れたのは決して、エミールの体に見惚れていた訳ではない。いや、少し見惚れていたの事実だが。
で、エミールは何と言った。たしか、ゴブリンを眷属にしたらと言ったのだったけ?
どうやって?
ここ重要だからもう一度言った。
また、エミールの時みたいに腕から黒い霧のような物を出すのだろうか?
出せるかどうかはやってみない事には分からないが、この数のゴブリン達を全てはさすがに無理だと思うよ。
第一、会話の成り立たないゴブリン達にどう説明するんだ。
今から力を授ける、我の力が欲しくば前に出よ。
こんな感じのだろうか?
無理だよなぁ。言葉が通じないし、生贄を寄こせみたいな感じではどうしようも無いよな。
そんな、俺の思いとは裏腹にエミールが言う。
「任せてください」
エミールのその一言には力があった。
そこに、どんな思いがあったかは俺は知らないが満面の笑みを浮かべ、俺を見つめるエミールを見て俺は思う。
ああ、これはやべぇと。
次に瞬間、エミールは顔を引き締め、振り返る。その動作は洗礼されていて、さすが貴族だなたといったところなのだが、貴族であることは俺は知らない。
そして、叫ぶのだ。舞台で喜劇を歌うように、ありがたい説法を説くように、その姿はまるで独裁者の演説のように見えた。
「ゴブリン達よ。御方は、降臨なされたのです。我らが主であられる御方が深淵より、その姿を現したのです。私は御方のお陰でこのように素晴らしい体と、忠義を尽くすに相応しい主を得ました。出会いや馴れ初めは最悪だったにせよ、この出会いはあなた達のお陰と言ってもいいでしょう。しかし、これはあなた達の悲願。あなた達が叶えるべき宿願だったのではないのですか。なのに何故、あなた達はそこにただ突っ立っているだけなのですか?何故、力を得ようとしない。このままで、いいはずがない。その思いからあなた達は行動したのでは?ならば今、その悲願が宿願が叶った今こそがチャンスなのではないのですか?変わりたいのなら、行動しなければ意味がない。そのままでは、あなた達は変わらない。力を得たいのであれば前に出よ。我が主様は誰も拒みはしない!」
なにこれ?
めっちゃ恥ずかしい。やばいな、本当に公開処刑だよ。
で、エミールはなぜゴブリン側の事情を知っている風に話しているんだろう。
そして、会話が成り立たないはずなのに、その力説にゴブリン達が呼応している。
言葉は通じないが、何を言おうしているのかは、何となく伝わるのだろう。その表情から仕草から、言わんとしていることが伝わるのだ。
そして、エミールの演説が終わった時、一匹のローブを纏ったゴブリンが前に出た。
物語がなかなか前に進みませんね。
少しずつ進めていきますので温かい目で見守って下さい。
よろしくお願いします。