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崇拝されるが、勘弁してください  作者: 子猫ポイズン
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第一信者

 彼女、エミールは王国の騎士として順風満帆の人生を送っていたはずであった。

 彼女は貴族の生まれとして、この世に生を受ける。

 あまり大きな貴族というわけではなかったが、日々を暮らしていくには何不自由する事もなく彼女は幼少期を育っていった。

 そんな彼女が、国を守るために騎士を志したのは一冊の本であった。

 それは、ありふれた物語。勇者が仲間を集め、魔王を倒すお話。

 彼女は、戦いに、賞賛に、英雄に憧れた。

 貴族育ちの彼女が、戦いに身を置くには騎士団に入るのが一番手っ取り早かった。

 彼女は騎士団に入団すると戦いに身を置き、確実に実力をつけていった。

 やがて彼女は騎士団の中でも頭角を現していき、ある任務を受けることになる。

 それは彼女が待ちに望んでいた、国が勇者と認定する者に従い力となることだった。

 勿論、彼女はその任を受け勇者に同行するのだが、今回の勇者への依頼が彼女を窮地に追い込む。

 勇者たちは、確実に実力を積み上げてその力は人類の上位に食い込んでいける程の実力を有していた。

 しかし、一行は知らない。

 たかが、ゴブリンの掃討だと油断していた彼らは、エミールを犠牲に命からがら逃げ延びる事になる事を。

 そこに住むゴブリンたちは、種族の限界を迎えた見た目普通のゴリラなゴブリンたちであったである。









俺の目の前には、ベコベコに鎧が凹んだ女騎士が無惨に転がされていた。

素材は凄くいいのだが、戦闘でおった傷に、引きずられてできた傷、とっておきは心ここにあらずといった瞳に光がない、死んだ目をしている。

 そんな、彼女を俺はどうすればいいんだよ?

 ゴブリンたちは、俺が彼女に何をするのか興味津々といった感じでこっちを見ている。

 自身の姿にびっくりしている手前、どうすればいいかなんて全く分からない。

 目を覚ますと、邪神のような形で異世界に転生しているし、目の前には生贄、周りはゴブリンたちの恐らく信者と思われる魔物に囲まれている。

 どうすればいいの?

 生贄って食べるの?

 口とか無い、禍々しい色の見た目全身タイツなランプの魔人だよ。

 物凄く期待されているようだけど、どうすればいいんだ?

 とりあえず、助け起こそう。

 こっちが身振り手振りで、どうにか害がない事をアピールして彼女を味方につけよう。

 ゴブリンたちについては、どうにかなるだろう。

 さぁ、まずは彼女に敵意がない事を示すのだ。

 友好の証と言えば、握手だろう。

 俺は彼女に手を伸ばした。


「ひぃ!」


 彼女の口から小さな悲鳴が聞こえる。

 死んでいるかのような心の所作をしていようとも、まだ死んでいる訳ではない。せめてもの抵抗のように彼女の口から出て悲鳴が、心に響く。

 手が、伸ばした手がその声に止まる。

 チッィ!

 舌打ちしたいが、俺にはそんな舌も口もにない。

 さっき決めた覚悟が、早くも揺らいだことに苛立ちを覚える。

 が、こんな事でどうする?俺は自分に問いかけ、手に力を籠める。

 震えを止めて、まずは第一接触だ!

 手でも握って、こちらに悪意がない事を示せばいい。

 怖い思いをさせてしまったなら、後で死ぬほど誤ればいい。

 さぁ、その手を伸ばせ!


「ギャァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 は?


 驚いてばかりで申し訳ないが、全く理解が及ばない。

 俺が伸ばした腕から、黒い霧のようなものが出て彼女を覆っている。

 まるで、あれだ。中二病患者が「俺の腕には闇の力が宿っている。食らえダークネスXXX!」みたいに叫んだ後、彼らの望む力が発現していたらこんな感じだろうといった状況だろうか。

 友好を結ぼう手を伸ばしたら、闇の力で攻撃しているみたいな感じ?

 待て待て、これは止められるのだろうか?

 黒い霧は心なしか、その勢い増している。

 見間違え出なければいいのだが、霧が彼女を浸食しているように見える。

 そんな霧の中で、さっきまで死んだような体をしていた彼女は、誰がどう見ても必死と分かるほどもがいてもがいてあらがえない何かに抵抗している。

 歓声を挙げるはゴブリン達。

 どうすればいいんだ、手から放出されえる霧は今だ彼女を覆い苦しめている。

 どうにか、止まってくれえぇぇぇぇ!

 彼女の苦しみと俺の苦悩、ゴブリン達の歓声は手の霧の放出が終わるまで続いた。








 俺の手から霧の放出が止まると同時に、彼女の悲鳴が途切れた。

 ああ、やっちまった。

 自分がやってしまった事と、どうしようも無く止められなかった後悔とが胸の中で渦巻く。

 頭を抱え、嘆く姿は誰が見ても狂人が狂っているようにしか映らない。

 だが、その場を離れる事も、喋ることも出来ない俺はこれ以上狂わないように、この狂おしい気持ちを体全体で表現し、発散するしかなかった。


「嘆く事はありません、我が主」


 え?


 聞こえた、確かにそこに転がる彼女から言葉が聞こえた。

 自身が謎の力で殺してしまったと思っていた彼女が、ゆっくりと立ち上がる。

 その容姿は、以前とは違い、金髪の神には黒い呪文のような跡が幾つもあり、肌が病的な程に白くなっていた。

 しかし、一番変わっていたのは彼女の目だ。

 死んだようなを目をしていた彼女の目は、輝いていた。

 黒く深く、底が見えない奈落のように。

 そして、彼女は膝を折り、かしずくのであった。

 自身の王に忠義を尽くすように。


 は?


 俺は頭の中が疑問符で一杯になっていた。


 

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