幕間Ⅱ
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ある日のこと、魔女は声の聞こえるままに幾つかの家に訪れ、その話を聞いては相談に答えたり、話の内容によっては嘲笑い無視をしていた。辺りが暗くなっていき、今日は悪魔達の集会に行く気が湧かず、早々に離れの小屋で暖を取っていた。摘んで保管していたブルーベリーを鍋に入れ、水を足し、煮てはかき混ぜていた。木の棒でかき混ぜて、ふうとため息をついたとき、小屋の窓の外にすっと隼に似た鳥が横切った。十分に温めると彼女は木のお椀に注ぎ、一杯飲んだ。辺りは静かであった。椅子に腰かけては部屋の静けさと戯れるかのようにゆっくりと温めたブルーベリーの溶かしたお湯を飲んでいた。すべてお椀を飲み干すと、彼女は立て鏡の前に立ち、鏡に映る自分を見ていた。左手に付けていた金の腕輪を右手でつかみ、指で腕輪のふちをなぞっていた。この腕輪は彼女の魔力を抑えるためのもので、腕輪自体にも彼女の力に匹敵するほどの魔力を秘めていており、その腕輪を砕いてしまえば、簡単に彼女も溢れる魔力で掻き消されてしまう。長く生きることに疲れてしまった彼女は何度かその腕輪の力を借りようと思ったことがあったが、自分のある状態とは別のものとなることを望んでいるようなものなので、実際に腕輪を砕こうとしたことは一度もなかった。それに魔力を秘めているだけでなく、その文様の記されていない腕輪の形や色合いを彼女は気にいっているので、砕くのにも躊躇いがあった。こうして長い間生きていて、いったい自分は何をするために生き続けているのだろうと彼女は思った。あの悪魔達のがなるような集会に定期的に参加して、かたや人の悩みも聞いて、そんな彼女にしか課されていない正反対の請負に務めているために生きているのだろうか。彼女は実際の彼女が日頃行っていることと生きている状態は全く関連のないようなものな気がした。時々、集会をさぼって、人の住まいに訪問するのを止めて小屋の中で本を読んだり、木の実を磨り潰して飲むのもわるくないと思った。長く生きていてもその生きている肉体一つ一つに精神性が宿り、その精神性が生きている愉しみを生き物ごとに違わせている気がした。それに彼女だって人より長く生きているとはしても、けっして不死ではない。彼女にも育ての親がいて、その両親は既に亡くなっている。だから彼女も、自分の命が尽き果てるか、捧げたりするまでは生きていたいと思っていた。しかし、長く変哲のなく起伏の多い日常の雑事は彼女を疲れさせた。内心は解放されたいと思いながらも、尽き果てるまでは生きようと決めたから生きているのがとても不思議だった。まだだった。また一日が経って、どこかからの声が聞こえなくなった。彼女は鏡を見つめぼうっとしたあと、小屋の外に置いた箒を持ち出し、椅子に腰かけては布巾で磨いていた。箒に艶が出るまで、一心に磨いていた。そのうちに夜は更けていった。磨き終えるとまた箒を持ち出し、ふっと飛びあっという間に近くの町まで飛んで行った。閉店しているパン屋のパンをくすねに行った。