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裏路地の異世界商店街  作者: TEL
第二章 最高な幕の下ろし方
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第二十八話 『心の前髪─5』

「なっ……何言ってるのよネロ!」

 突然の爆弾発言に、慌ててネロの口を塞ぐ。けれどネロは鬱陶しそうに私の手をほどいた。

「何を言うって……言葉通りの意味だよ。あの写真の中の子どもは誰なのか。単純に気になったんだ」

「だからって『誰の子だ?』って何よ! ルソーさんが抱いてるんだから、ルソーさんの子に違いないじゃない!」

「いや──それはあり得ない」

「──!」



 ネロがあまりにも力強く言うもんだから、私も思わず手の力を抜いてしまった。

「どういう……こと?」

「確かにあの子どもを抱いているのはルソーさんだ。でも子どもはルソーさんの子じゃ無い。もしルソーさんの子だとしたら、明らかにおかしい点がある」

 そこでネロはルソーさんの方をチラッと見る。

 ルソーさんは黙って後ろを向き、その表情は見えなかった。



「……その写真をよく見てみろ」

 私の方に視線を戻したネロが指示する。

 そこでもう一度写真を見るが、ネロが何故そんな事を言うのか、やはりよく分からない。

 色褪せた写真の中で、赤ちゃんを抱いているルソーさん。その隣にいる狐の顔をした人は、亡くなったルソーさんの旦那さんだろうか。


「彼女の抱いている子どもをよく見ろ。何か気づくことは無いか?」

「子ども?」

 言われてルソーさんが抱く子どもをよく見る。

 まだ小さな赤ん坊で、毛布にくるまられた子どもは、少しの髪を生やしてこちらを見ている……。


…………



……()()()


 そこで思わずハッとした。ネロの方を向くと、「やっと気づいたか」と言いたげな顔でこちらを見ていた。


「分かったか?」

 ネロが求めているであろう答えを、コクンと頷いて呟く。



()()()()()()()

 私と同じように頷くネロ。すると目を鋭くして、ルソーさんの方を向いた。


 ルソーさんは、何も言わなかった……





「今舞が指摘した通り、この写真の中の子どもは明らかに狐じゃない」

 ルソーさんは相変わらず私達に背中を向けて、食器を洗っている。

「恐らくこの子は舞と同じ人間──すなわち、ルソーさんから産まれてくることは有り得ない。この子は──ルソーさんの子じゃ無い」

「…………」

「だから僕は『誰の子だ?』と聞いたんだ。この子が純粋に誰なのか気になってね」

「…………」

 淡々と話すネロに、少し苛立ちを覚える。

 探偵としての性か知らないが、ネロが気になった事は無遠慮に追求したがる性格だということを、ここしばらくで私は知った。

 ネロにとっては、目の前の謎を解くのが当たり前の事なのだろう。今この状況もその一つで、ルソーさんに問いかけるのも、ネロにとっては当然の行いなんだ。


 でもそれが、ネロ以外の人にとっての当たり前という訳では無い。私にとっても、ルソーさんにとっても。


「良ければ教えてくれないか。何故あなたが自分の産んでいない子どもの写真を、そんな色褪せるまで後生大事に──」

「ネロ──!」

 構わず続けようとするネロに思わず大声が出る。ハッとして口元を抑えるけど、既に遅かった。



「──良いのよ、舞ちゃん」

 水道の水を止め、ルソーさんが口を開いた。

 振り向くルソーさんの顔には、まだ笑みが浮かんでいる。でもその顔がどこか寂しげに見えたのは、私の気のせいだろうか……


「ネロちゃんが気になるのは仕方ないわ。というよりよく気づいたわね。この写真見たの、初めてでしょう?」

「そうだな。でも、僅かな違和感くらいならすぐに気づく。探偵稼業を行う上で、それは一番大切な事だからな」

「あら、すごいのね。探偵って」

 ネロと親しげに話すルソーさん。怒ったりしてないのか? あんな失礼な事を言われたのに。



「さて──じゃあ真相が気になってるネロちゃんのために、教えてあげましょうかね」

 食器を置いて、ルソーさんは席に座る。

 その後天を仰いでいたのは、どこから話すべきかと悩んでいたからかもしれない。



「そうねぇ……やっぱり、出会った頃から話すべきかしらね」

 チラリと写真の方へ目を向ける。

「誰にも話したこと無かったから、上手く話せると良いんだけど──」




 そう言ってルソーさんは話してくれた。


 人間の子どもとの、辛く、悲しい過去を──

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