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ファンタジー短編

勇士

兵士の武具と言えば、重い金属鎧と長大な槍などの長柄武器ではないのか?

農家の三男であるヘイルは支給された武具を見て首を傾げた。

彼の住むコルベド村は貴族領ではあるが、面積も小さく目立った特産品がある訳でもない。

そんな村であるが、国の王都に向かう街道の中で最短ルート上に存在している。

普段は王都に向かう行商などで賑わっているが、今の村は普段では考えられないほど張りつめた空気が漂っていた。

隣国の軍隊が王都に攻め来むという。

進軍ルートは、コルベド村を通る街道だという。


「あのぉ、一体何をするつもりですか?」

急遽、領主の息子であるアルフに集められた手隙の若宗は皆訝しげな顔であった。

アルフに質問したのは、集められた面子の中で一番鈍い奴だった。

「分からないのか?」

「いや、分かって無いのはそいつだけだが……本気ですか?」

若宗のマトメ役であるコンドーの問いに、アルフは真面目な表情で頷いた。

それぞれに配られた装備は弓兵よりも軽装だ。

それにこの武器は?

「そういや、兄貴に聞いたことがあるぞ」

ヘイルは自慢げに語る学者かぶれの長男の言葉を思い出していた。

「これって最近西の方の国が作ったっていう銃って武器だろ?」

「あぁ。特別に買った。あいにくと予備はないから大切に扱え。使い方は今から教える。」

アルフは有無を言わさぬ強い口調でそう言った。


それから3日後。

ヘイル達は村から離れた雑木林の中に潜んでいた。

『自軍』はたかだか30。敵は話によれば1000人にものぼる騎士団だという。

正直、不安だった。

3日の間に銃がいかに強力な武器か理解していた。こんな物で狙われてはいかに騎士とてひとたまりもないだろう。

だが同時に不安にもなる。

「来たぞ!」

1人林の外で金属鎧に身を包んだアルフがそう叱咤した。

確かに、大地が揺れるほどの足音が聞こえ、もうもうと立ち込める土煙が近づいてくる。

距離はたかだか500mしか離れていない。

進軍を止めた騎士団に対し、アルフが大声で叫んだ。

「これより先に進みたければ、俺の首を討ちとって進め!」

剣を掲げて叫ぶアルフに対し、騎士団から大きな嘲笑が返ってきた。

しばらく何事か話し合いが行われた後、いかにも強そうな騎士が叫んだ。

「若輩ながらその意気やよし!この俺、百人隊長、レ―ゲストがお相手仕ろう!」

力強い足取りで向かってくる騎士に向けてアルフが切っ先を向けた。

それが【合図】だ。

第一陣であるヘイルは騎士に狙いをつけると引き金を引いた。

この3日の間ですっかり慣れた反動が腕を伝わる。

30人を3つのグループにわけ、それぞれ輪番に引き金を引く。

誰かの撃った弾が当たったらしい。

騎士がもんどりうって倒れた。

騎士団からざわめきが起こる。

「卑怯者!」「いったい何をした!?」

口々に叫ぶと騎士たちが一斉に雪崩れ込んで来た!

「撃て!怯むな、俺達で村を守れ!」

急いで火薬を装填すると、ヘイルは無我夢中で引き金を引いた。

街道にはところどころに落とし穴や、アルフの用意した地雷を設置してある。


耳がガンガンする。

「……!…めい!」

何かアルフが叫んでいる。

「撃ち方止めい!」

慌てて銃を下げる。

良く見れば、敵の姿は無い。

「あれ?」

ぽかんとするヘイルの肩をコンドーが叩いた。

「やったぞ!」

「やったって……え?まじで?」

「おおまじだ!奴ら尻尾を巻いて逃げたんだよ!」

その言葉を聞いて、ヘイルだけでなく、他の面々も口々に歓声をあげた。

ただの農民が騎士に勝てるなど、彼らは十数年の人生で想像すらしたことがなかった。

その喜びは筆舌につくせぬものがあった。


「黙れ!」

喜ぶ一同にそう怒鳴ったのは、アルフだった。

「俺たちも急ぐぞ。」

「なぁ、勝ったんだから別に……」

「勝ったからだ」

若者たちが守った村に住人はいない。

彼らが訓練を始めた日から、村人たちは家財の一切を纏めて領主の血縁であるク―レド伯が納める要塞都市に避難している。

もとより、逃げる手はずだった。

それでも戦ったのは、故郷を捨てなければならない怒りを、そのままにしておく訳にはいかなかったからだ。

「俺たちが勝った事で、あいつらはこの村をもっと大きな戦力で襲うだろう。そうなったら、俺たちは間違いなく殺される。それだけはだめだ。生き残って、徹底的に歯向かってやるんだ。」

アルフの声は冷静であるが、視線は紛れもない怒りを湛えていた。


「そのつもりだぜ!」

ヘイルは一人大声を張り上げた。

「今まで散々俺たち農民を馬鹿にしてきたんだ!あいつらを見返すには、まだまだ足りねぇよ!」

「おい、俺も一応は騎士なんだが?」

ヘイルの啖呵に呆れ顔でそう言うと、アルフは急にへたり込んだ。

「だ、大丈夫か?」

一同が目を丸くする中で、アルフは苦笑した。

「まったく、お前ら農民と違って俺は敵の真ん前にいたんだぞ?ふぅ、今になって腰が抜けた。誰か、手を貸してくれないか?」

アルフの言葉に30人の若者たちはどっと笑い声を上げた。

声は、雑木林に長い間響いていた。


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