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夏の日  作者: しお
8/13

7.不安

*


梅雨明けの夕焼けはとても綺麗だった。

シバオカさんと別れた後、駅前の本屋に行く僕。

不意に、彼女を見かけた。

駅の自販機で何を買おうか迷う、トウカ。

電車通学だったのか。


声を掛けるとジロリと瑠璃色の瞳が睨む。

訳がわからず戸惑う僕。


「何か用?」

「えと…僕…何かした?」

「とぼける気?私のこと騙してたくせに!」

「え…?」

「付き合ってるんでしょ、芝岡さんと」

「違うよ」

「嘘つかないで。カナに言われたわ」

「ほんとに付き合ってないよ」

「…さっき芝岡さんに会いに行ってたじゃない」

「あぁ…それは告白を断りに」

「…?」

「付き合ってほしいって言われてたんだ…それを断るために呼び出した」

「…で、でも!何でそんな誤解が…」

「……あぁ、僕が芝岡さんのこと好きって言ったからかなぁ」

「好きって……」

「人としてね、意味を捉え間違えたみたい」

トウカがしばらく考え込む。


「じゃあ…私を騙してたわけじゃない…の…?」

「騙す?なんで?」

「……」

「ねぇ、時間ある?見せたいものがあるんだ」


*


「わぁ…」


目を輝かせるトウカ。

いつも2人でお弁当を食べた屋上。

今日は夕焼けがとても綺麗だったから、彼女に見せたかった。

学校まで戻るのは面倒だったけど、そう遠くはないから良しとしよう。


「この町ってこんなに綺麗だったのね」


どこにでもあるような恥ずかしいロマンチック。

僕には、こんなありふれたもので表現するのが精一杯だ。

だけどトウカは、こんなものにさえ純粋に反応してくれる。

それがとても嬉しくて。

嬉しい気持ちを彼女のように伝えたくなる。

だけど僕は…。


ずっと景色に夢中だった彼女がこちらに振り返った。

「ねぇねぇ、こっち来て」と笑う彼女が、夕日の色に溶けて、とても繊細で儚く感じた。

何だか胸が締め付けられる感覚がした。


彼女の手招きに従って隣に並び、フェンス越しに景色を眺める。

先に口を開いたのはトウカだった。


「ありがとう杉くん。カッコ悪くて疑い深いこんな私に優しくしてくれて」


なんて言えばいいのかわからなかった。

僕はなんて返すんだろう、なんて考えていたら、トウカの隣にいる僕はとんでもないことを言った。


「君のことが好き」


途端に赤面するトウカ。

見ている僕まで顔が熱くなった。

話下手に程があるぞ僕。

こんな記憶までキレイさっぱり消されていたなんて…スピカめ、こんな恥ずかしい回想を…。


「…え…あ、あぁ!人としてだね?びっくりしちゃったじゃん~!芝岡さんみたいに勘違いしちゃうとこだよ」

なんて言いつつ顔を真っ赤にして焦るトウカ。


「…違う意味」


照れながらボソッと僕が言う。

うわぁぁ 消えたいぃ 僕のばかぁぁ…

これがスピカの言ってた「取り返しのつかないこと」なの?

僕にとってはそれぐらい恥ずかしいぃぃ


トウカが顔を赤くしてうつむく。

「私も…杉くんのこと…恋愛感情で好きになってたのか…も」


……ときめくってこんな感覚かぁ…。

それにしても恥ずかしい……やだやだ。


「……そろそろ帰ろっか、桃花」


呼んでみたようだ。

恥ずかしすぎ。


言葉に詰まるトウカ。

疑問に思う僕。

「わ…私、杉くんの下の名前…知らない…」なんだそんなことか、と教える僕。

なぜかよく聞き取れなかった。


「××…かぁ…何だか呼ぶの恥ずかしいね」

嬉しそうなトウカの顔にこっちまで照れる。


その後は、手を繋いだり…なんてことはなく、友達らしく帰った。

何か変わったことがあったとしたら、今までよりお互い嬉しそうに見えるくらい。

やっと守れた小さな花。

いつまでも大切にしたい、なんてね。



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