5.騒音
シバオカさんの取り巻きの中でも、口の悪いロングスカートの女の子が焦りながらやって来る。
「おい燦香!杉くん、真子といたぞ!?」
「え……」
「やだぁ真帆ちゃん焦っちゃって~。杉くんは元々女子に人気あるんだから、話しかけられることくらいありますぅ」
「そ、そうだよ…私、杉くんが女子と話してるくらいで怒んないよ…きっと大丈夫…」
「でも相手は真子だぞ?燦香たち知らねぇのか?2年のときのバレンタインで真子がみんなの男奪いやがったって話」
「え…」
何かに失敗すると誰かのせいにしたくなる。
自分の非を認めたくなくて、罪の擦り付け合い。
無垢なトウカは、ただの被害者。
綺麗で優しい子だからみんなに妬まれているだけ。
排気ガスだらけの都会では、花は美しいまま生きていくことができない。
花が長生きするには、どうすればいい?
僕には花の知識なんてない。
*
すっかり、トウカと屋上でお弁当を食べるのが日課になっていた。
シバオカさんたちのことなんか知らずに。
「最近あの2人毎日一緒にいるぞ、大丈夫なわけないだろ燦香」
「……」
見覚えのある女の子がシバオカさんに近付いてくる。
「真子まじ八方美人だから気を付けて。あたしもあいつのせいで狙ってた男取られて最悪。今に杉くん取られちゃうよ」
カナだった。
仲良しだったトウカに嫌がらせをするようになったその子は、心なしか以前より前髪が伸びた気がする。
「…そんなにみんな被害にあってるの…?」
シバオカさんが怯えたような表情をする。
「……あたし…真子さんって…どんな人かよく知らないけど…きっと酷いことする人なのね……」
「…だ 大丈夫よ燦香…。杉くんも燦香のこと好きって言ったんでしょ…ね?…」
「くそ…真子のヤツ、燦香を泣かせやがって…絶対許さねぇ…!」
口の悪いマホという名の取り巻きは、歯を食い縛って言った。
*
「桃花ぁ~」
大袈裟なくらい嫌味な口調でカナがトウカに近付く。
まるで嫌がらせの張本人は、自分ではないと言うかのように。
「何…」
身構えるトウカ。
「あんた最近杉くんと仲良いんだって~?」
「…まぁ」
「お前あたしらの次は燦香に恥かかせる気?」
カナの口調が急に鋭くなる。
「え…?芝岡さん…?」
「知らねぇのかよ。燦香と杉くん付き合ってんだよ」
「え……」
タイミングの悪いことに、そこに僕がやって来てしまう。
「マナゴさん」と声を掛けようとして、カナのわざとらしい声に遮られる。
「あ!杉く~ん!燦香が探してたよぉ~?」
「燦…?あぁ芝岡さん?ちょうど僕もあの子に用があって呼び出しを…」
「ほんと?早く行ってあげてぇ~!」
再びトウカとカナだけになる放課後の廊下。
「これでわかったろ?2人は付き合ってんだから、これ以上邪魔すんじゃねぇよ」
冷たく言い放ち、1人になる廊下。