4.ズレ
「ねぇ私ってほんとに杉くんと付き合ってるのかな…」
いつになくシバオカさんが不安そうに取り巻きの女の子たちに話しかける。
「はぁ~?何言ってんだよ両思いなんだろ?」
「でも杉くんの態度、今まで通りな気がしますぅ」
「ばか、杉くんは元々クールでしょ」
「…あたしもう一回杉くんに告白してくる」
教室を出ていくシバオカさん。
行動の早さに、ポカンと呆気にとられる取り巻きの女の子たち。
降りだした雨に足止めされる僕。
下駄箱で一人雨宿り。
季節は梅雨に入ったらしい。
そこに、シバオカさんがやってきた。
彼女は僕に、付き合ってほしいと言った。
僕が見ている僕は以前言われた「好き」が恋愛感情だったことをようやく理解した。
僕は彼女に対して、恋愛感情などない。
明るい笑顔や素直なところが、人として好きだと。
僕が話し出す前に、シバオカさんは去って行った。
「返事は今度でいい」と。
気が付くと、雨が小降りになっていた。
*
トウカと僕は、廊下などでよくすれ違うようになった。
「やぁ」と挨拶する僕。
申し訳なさそうに会釈するトウカ。
僕たちは互いに1人でいることが多かった。
僕は別に孤立していたわけではなく、1人でいるのが好きだっただけ。
トウカはどうだろうか。
当時の僕は、そんなこと考えてもみなかった。
だから、彼女の心にズケズケと入り込んでしまう。
「ねぇ、もしかして僕のこと避けてる?」
相変わらず、声も表情も感情が込もっていないな、なんて我ながら思った。
「そんなこと…」
濁すトウカ。
「あまり関わらない方がいいとか言うわりに、何だか寂しそうに見えて」
「……」
「僕もよく言われるんだ。お前ってなんかいつもつまんなさそうな顔してるよなって」
「…そうなんだ」
「だから放って置けない気がして…。余計なお世話じゃなかったら、いつでも何でも聞くので」
「ありがとう杉くん」
「ん…」
「あ…じゃあ…そろそろ…私お昼ご飯まだだから」
「…僕も。食べる…?一緒に…」
「…うんっ」
トウカが少し笑った。
大人びたような幼いような、優しい笑顔。
このときの僕は、こんなに純粋な子が、なぜ嫌がらせを受けているのかを知りたかった。
ただの興味本意だったのかもしれない。
彼女が人目を気にすると思ったので、僕がたまに行く、屋上のお気に入りの場所でお弁当を食べた。会話も他愛ないものばかりだった。
互いの兄弟の話、好きなお弁当の具、無邪気な彼女との話はとても楽しかった。
「あれ?私ばっかり笑ってない?杉くんって全然笑わないね」
ムッとおどけた表情をするトウカ。
「そうかな」
「そうだよ」と言って、彼女はまた笑った。